最新記事

BOOKS

「コンビニ外国人」が多い日本、政府の「移民」の定義はズレている

2018年7月18日(水)17時48分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<外国人労働者の受け入れに積極的な一方、移民を認めないための定義を定める。そんな日本の現状に疑問を投げ掛けるルポルタージュ『コンビニ外国人』>

コンビニで働く外国人の姿を見ることは、決して珍しくなくなった。そして個人的には、彼らにとてもいい印象を抱いている。少なくとも我が家近くのコンビニに関していえば、日本人店員よりも外国人店員のほうが圧倒的にまじめで愛想もいいからだ。だから、こうした傾向を歓迎していた。

日常的にそんなことを感じていたからこそ、日本在住外国人の問題を取材してきた著者によるルポルタージュである『コンビニ外国人』(芹澤健介著、新潮新書)に関心を抱くのは、むしろ当然の話だったといえる。

著者は、長年にわたり日本在住外国人の問題を取材してきたというライター、編集者、構成作家。本書の執筆にあたっては、コンビニで働く外国人や周辺の日本人を取材し、日本各地はもちろんのこと、ベトナムにまで足を運んでいる。

「はじめに」の部分に目を通した時点でインパクトを投げかけてきたのは、著者自身にとっても印象的だったというアイン君(24歳)の言葉である。

彼は東京大学の大学院で経済を学んでいるベトナム人留学生。「日本のことは好きですし、これからもずっと日本と関わっていきたい」と言うものの、同時に辛辣な考えをも明らかにするのだ。


「いま日本には外国人が増えて困るという人もいますが、東京オリンピックが終わったらどんどん減っていくと思います」
 そう考える理由を教えてくれた。
「ソウルオリンピック(一九八八年)以降の八大会(夏季)で、開催国の成長率が前年と比べて上昇したのはアトランタオリンピック(一九九六年)だけです。アトランタ大会を開催したアメリカは、大会後にIT革命が起こって経済成長を牽引したと言われています。しかし、いまの日本にそのような起爆剤は見込めません。ですから、おそらく東京オリンピックの後は、日本は不況になります。しかも、日銀の超低金利もオリンピック後には上昇する見込みで、企業の資金調達も困難になると思います。同時に日本はすでに労働人口も減り続けているので、本来は外国人の労働力をうまく使わないと経済成長できませんが、外国人はきっと増えません。なぜなら日本は外国人労働者の受け入れ制度が整っていませんし、多くの外国人が『日本は不況だから稼ぐのは難しい』『人手不足で残業が多くなるのはイヤだ』と考えるからです。そうなるとより多くの労働力が減って、日本の経済はますます傾いていくでしょう」(8~9ページ「はじめに」より)

この予見は複数の専門家が指摘していることでもあるが、もしそのとおりになってしまうのなら、早急に"オリンピック後"のことを考える必要があるだろう。しかし、だからといって著者はここで、外国人労働者(=移民)の受け入れについての是非を問おうとしているわけではない。

日本の至るところで外国人が働いているなか、"コンビニで働く外国人"は最も身近な外国人労働者であり、雇う側にとってもありがたい労働力である。だからこそ、彼らをさまざまな角度から見ていくことによって、日本の実相や課題を浮かび上がらせようとしているのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米支援で息吹き返すウクライナ、兵力不足は

ビジネス

NZ中銀、自己資本規制見直しの必要性否定 競争当局

ワールド

ガザ戦闘、人道状況に「著しい悪影響」 米国務省が人

ワールド

ロシアがウクライナに無人機攻撃、南部オデーサで7人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中