最新記事

スパイ

中国サイバー攻撃がCIAスパイネットワークを出し抜いた

How China Outwitted the CIA

2018年9月11日(火)17時15分
ザック・ドーフマン(カーネギー倫理・国際問題評議会・上級研究員)

2つのシステムを隔てるファイアウォールに穴が開いていたとすれば、ひとたび暫定システムにアクセスした中国側が正規システムに侵入することは、さほど難しくないはずだ。ファイアウォールに穴が開いていた期間はほんの数カ月だったかもしれないが、中国の情報機関はその隙を突いて、正規システムに悠々と侵入できた。

機密情報をロシアに?

しかし、システムが具体的にどのようにして破られたのかは不明だ。中国の情報機関は二重スパイを通じて、CIA工作員から通信システムへのアクセスを入手したのかもしれない。

あるいは、何らかの方法で(例えばリーのもたらした情報によって)CIAのスパイを特定し、その人物のパソコンを押収した可能性もある。インターネットの監視を通じて不審な交信パターンを検出し、その解析によってCIAの通信システムを特定した可能性もある。

中国側は暗号通信システム破りに本腰を入れて取り組んでおり、その任務遂行のため、情報機関に加えて人民解放軍内の諜報部局(中国版NSAのような組織)まで動員して特別チームを編成していると、取材に応じた元当局者の1人は言う。

CIAのスパイを1人でも特定できれば、その人物がCIA工作員と接触した履歴を追跡することで、スパイ網の全容を解明できたと考えられる(情報提供者の中にはあまり通信システムを利用しない人物もいたが、それでも摘発された)。

元当局者の1人によれば、こうして得た情報を中国がロシアと共有していたことを示す「有力な証拠」を、アメリカ側はつかんでいる(ロシアにいる情報提供者の一部も同様な通信システムを使っていた)。現に米NBCニュースは今年1月、CIAのスパイ網が中国で骨抜きにされたのとほぼ同じ時期に、それまでCIA工作員と接触していた複数のロシア人情報提供者が消息を絶ったと報じている(取材に応じた元当局者もその事実を認めている)。

秘密のハイテク通信システムが破られたことで、アメリカの諜報部門では、にわかに昔ながらのローテク通信手段が見直されているようだ。

昔から言われているように、諜報活動で用いる通信手段は「使いやすいものほど破られやすい」。だから中国でスパイ網が一網打尽にされて以来、CIAの工作員たちは協力者とオフラインで会うといった伝統的な手法に回帰している。ただしオフラインの接触には手間がかかるし、固有のリスクも伴う。

インターネット経由の通信システムは、たとえ高度な暗号化技術を用いたとしても、完全に外部からの侵入を防げるものではない。これが中国での苦い経験からCIAが学んだ真実だ。

取材に応じた元当局者の1人は言ったものだ。「技術がどんなに進歩しても、自分たちの暗号システムは絶対に破られないと信じていいのか。情報提供者の命を絶対に守る。それが私たちの使命なのに」

From Foreign Policy Magazine

<本誌2018年9月11日号掲載>

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中