最新記事

日本政治

安倍「長期政権」はなぜ「安保ビジョン」をスルーしたのか

2018年10月15日(月)11時50分
辰巳由紀(米スティムソン・センター東アジア共同部長、キヤノングローバル戦略研究所主任研究員)

「明治維新以降の最長政権」で何を実現するのか TORU HANAI-REUTERS

<森友・加計問題への対応に追われてじっくり考える時間がなかった? 自国第一のアメリカ、不透明な北朝鮮問題、複雑化する中ロとの関係――。国家安全保障戦略の見直しなしに、新時代を乗り切れるか>

9月に自民党総裁に連続3選された安倍晋三首相は、今後3年の任期を務め上げると、明治維新以降で最長政権を維持した日本の首相になる。残り3年で何を達成しようとするのか。日本が直面する経済や外交・安全保障での課題を考えると、本人が優先課題として掲げる憲法改正ではないという議論もある。しかし、改憲以外の分野でも、安倍首相を待ち受ける課題は簡単なものではない。

北朝鮮だけをとってみても、拉致問題を抱える日本は米朝韓中ロの間で続く外交ゲームに関与できないままだ。日ロ関係でも、ウラジーミル・プーチン大統領の「前提条件なしの平和条約締結」という突然の提案に効果的な反応はできていない。

日米関係も、通商問題で鉄鋼・アルミニウムへの課税を回避できず、新たな2国間貿易協定に向けた交渉に合意させられるなど、あれだけエネルギーを傾注して構築したドナルド・トランプ大統領との「個人的関係」の効果に疑問が残る。さらに沖縄県知事選では、新しい米軍施設に反対する玉城デニー前衆院議員が圧勝したことで、普天間飛行場の辺野古移設が難航することがはっきりした。

安倍首相は「地球儀俯瞰外交」「積極的平和主義」というコンセプトをてこに、オーストラリアやNATOとの防衛協力強化や、東南アジアやアフリカとの関係強化を進めてきた。残りの在任期間中、外交・安全保障分野では何を追求すべきだろうか。

長く冷却していた日中関係については、今秋の首相訪中など首脳レベルでの往来が活発になりつつある。少なくともトランプ政権の間は、アメリカとの関係で常に不確定要素が存在することを踏まえれば、残りの在任期間で自主外交の機会を広げることも選択肢に入ってくる。

ただそのためには、2013年に策定された国家安全保障戦略の見直しを検討する必要があったかもしれない。4〜5年後までを念頭に置く防衛計画の大綱と、その間の防衛装備調達の大枠を定める中期防衛力整備計画(中期防)は見直し作業が進んでおり、年末までに完了すると言われている。それは過去4~5年間の安全保障環境の変化を踏まえたものになるはずだ。

とはいえ、新大綱・中期防の基礎となるべき国家安全保障戦略が5年前のままでは、新しい方向性を出すといっても限界がある。なぜ安全保障戦略の見直しに手を付けなかったのだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選資金集め、4月はトランプ氏が初めてバイデ

ビジネス

英GSK「ザンタック」、発がんリスク40年隠ぺいと

ビジネス

アストラゼネカ、シンガポールに15億ドルで抗がん剤

ビジネス

BMW、禁止対象中国業者の部品搭載した8000台を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 8

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中