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サウジ投資会議ボイコット相次ぐ ムハンマド皇太子の経済改革、政治リスクの影広がる

2018年10月23日(火)11時04分

トランプ米大統領は、米国とサウジの安全保障面の関係を守り、サウジへの多額の武器売却も続けると強調。ハント英外相も、カショギ氏殺害報道が真実なら全く容認できないと発言しつつ、英国はサウジと戦略的な関係にあり、英国の行動はその点を「配慮する」と付け加えた。

このためダビー氏などの専門家は、制裁が発動されたとしてもサウジの痛手は小さいと予想する。最も話題になっているのは、米国が人権問題に関わった人物のビザ発給停止や資産凍結を行うことだ。もしカショギ氏死亡に責任があると判明した何人かのサウジ人にそうした制裁が科されても、サウジ経済に重大な悪影響は及ぼさない。

この事件が落着すれば、PIFの案件に伴う手数料収入目当てで西側の銀行が再びサウジにやってくるとの声も出ている。

ただサウジと西側の取引が通常の状態に戻ったとしても、カショギ氏の事件は同国への外国資本流入に影を落とし続けるだろう。

ペルシャ湾地域のあるバンカーは、ムハンマド皇太子が昨年汚職容疑で王族や企業幹部を一斉に拘束した際と同様に、カショギ氏の事件について外国の顧客から多くの問い合わせを受けたと説明。「イエメンへの武力行使、カタールとの断交、ドイツやカナダとの関係緊迫化、女性活動家の逮捕といった過去の問題が積み重なり、サウジでは衝動的に政策が決まるとの印象が強まり、投資家を心配させている」と指摘した。

またサウジが米政府の大規模な制裁を免れても、米議会は同国にあまり肩入れしないという態度を続ける可能性があり、そうなると原油価格を巡って石油輸出国機構(OPEC)加盟国に独占禁止法を適用する法案が復活してもおかしくない。

サウジ国内に目を向けると、カショギ氏の事件でムハンマド皇太子の権威が揺らぎ、政情が不安定化したり、財政赤字削減などの改革のスピードが落ちるのではないかとの観測も聞かれる。

ムハンマド皇太子は汚職取り締まりと改革を掲げて多くの国民の支持を集めた半面、こうした動きで打撃を受けた一部の王族や企業関係者がカショギ氏の事件をきっかけに反撃を仕掛ける事態があり得る。

リヤドのあるバンカーは「経済と社会の改革に向けて過去1年間実施されてきた努力が全て水の泡にならないかと気をもんでいる」と打ち明けた。

(Andrew Torchia、Hadeel Al Sayegh記者)



[ドバイ 19日 ロイター]


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