最新記事

AI医療

AIで患者の死期を予測して「余命」を改善

PREDICTING TIME OF DEATH

2018年11月28日(水)17時40分
メリッサ・マシューズ

高度医療よりも豊かな最後の日々を送るためにAIを活用する Tunart-E+/GETTY IMAGES

<患者の余命が短いかどうかある程度予測できれば、緩和ケアの導入を検討するきっかけになる>

スタンフォード大学の研究チームが、人工知能(AI)を使って患者の余命を予測しようとしている。目的は、患者の生活の質(QOL)の向上だ。

論文によれば、アメリカ人の80%は死期が近づいたら自宅で過ごしたいと答えているという先行研究がある。だがそれを実現できるのはたった20%だ。「病状が進んで危険な状態になり、集中治療室(ICU)に入るケースが非常に多い。そうなると、患者のためにも家族のためにもならないような医療的介入がどんどんエスカレートする結果になってしまう」と、論文の共著者であるケン・ジュングは本誌にメールで語った。

緩和ケアは基本的に、患者の主治医の紹介がなければ始められない。だが「最前線の治療を行っている医療チームが(緩和ケアの)必要性を認識しているとは限らない」とジュングは言う。その結果、緩和ケアへ移行するタイミングを逸し、病院で不本意な形で人生を終える患者は少なくない。患者の余命が短いかどうかをある程度推測できれば、緩和ケアの導入を検討するきっかけになるかもしれない――ジュングたちはそう考えた。

研究チームは成人と子供の計約200万人の患者の電子カルテを解析、条件の合う20万人を選び出した。このうち16万人の症例をディープラーニング(深層学習)のAIに学習させ、「設定した日付から3〜12カ月以内の死亡率を、患者の前年の電子カルテデータから予測」させた。

続けて研究チームはAIに、16万人のデータ処理で身に付けた能力を使って、残る4万人のデータについて同じ予測をさせた。その結果、AIは9割の症例で予測に成功。3〜12カ月の間に死亡する可能性は低いと判断された患者の約95%は、実際に12カ月以上生きていた。研究チームはこのAIシステムがいつの日か医療現場で使われることを期待している。

「AIを用いるのは、緩和ケアを検討すべきだとAIが判断した患者に対して、緩和ケアの専門家のほうから提案することができるからだ。緩和ケア専門チームが患者の治療歴を調べた上で、主治医と今後の方針を相談できるようになる」とジュングは書いている。

ただし、「1年以内に死亡する」とAIが予測した根拠を患者に説明するのは難しいかもしれない。研究チームとしては、目的は死期を「宣告」することではなく、緩和ケアの恩恵が得られそうな患者を洗い出すことにあるため、問題はないと考えている。

<本誌2018年11月20日号掲載>


※11月20日号(11月13日売り)は「ここまで来た AI医療」特集。長い待ち時間や誤診、莫大なコストといった、病院や診療に付きまとう問題を飛躍的に解消する「切り札」として人工知能に注目が集まっている。患者を救い、医療費は激減。医療の未来はもうここまで来ている。

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中