最新記事

EU

ユーロ圏を脅かすイタリアの暴走

An Existential Test

2018年11月2日(金)15時40分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌記者)

――ギリシャ財政危機よりも影響は大きいということか。

レベルが全く違う。これは3兆ドルの債務問題で、3000億ドルではない。現在のヨーロッパの救済メカニズムは、全面的なイタリア危機に対処できるほどのものではない。唯一問題を解決できるのは、マリオ・ドラギECB総裁が「いかなる手段を講じてでも」危機を回避すると決意表明をするとともに、ECBがイタリア国債を買い続けることだ。

もちろんECBも、EU経済全体の状況を幅広く検討して、場合によっては、国債買い付けの規模を縮小するとしている。それでも、カギを握るのがECBであることに変わりはない。財政調整やユーロ圏の構造改革などいろいろなことが言われるが、実際に市場がパニックに陥れば、短期間で市場を安定化できるのは中央銀行だけだ。

当然ながら、それはユーロ圏に政治的問題を引き起こす。ドイツの極右政党「ドイツのため_の選択肢(AfD)」を伸長させたのは、15年の難民危機ではなく、アンゲラ・メルケル首相のユーロ危機への対応の不満だ。保守派は強硬な措置を求めている。メルケル率いる与党・キリスト教民主同盟(CDU)が今、何としてでも避けたいのは、ECBがイタリアを救済するために緊急措置を講じることだ。

――予算規律の維持に失敗し、ドイツが圧倒的地位を築いて他の国々に緊縮を強いるなど、ユーロ圏というコンセプト自体が崩れつつあるのか。

実のところイタリアは、20年前から緊縮政策を取っている。これはドイツよりも長い。イタリアの問題は、70年代、80年代、そして90年代初めに積み上げた莫大な政府債務だ。財政赤字自体は控えめだ。しかし現政権がそれを少しばかり増やそうとすれば、EUの財政ルールに違反することになってしまう。

イタリア発ユーロ危機が起きるとすれば、その原因は財政規律の欠如ではなく、成長が欠如しているせいだ。イタリア経済は成長していない。そして成長を生み出す方法が分からずにいる。確かにこれは、現在の形のユーロ圏の存続の危機だ。

だが、ユーロ圏の崩壊が始まっているかどうか判断するのは時期尚早だ。イタリアが離脱すれば、ユーロ圏が壊滅的な打撃を受けるのは間違いないが、その可能性は最小限と言っていい。五つ星運動はアンチEU政党ではない。ただ、ユーロ圏は組織や優先課題といった基礎を見直す必要性に直面している。

――イタリアとユーロ圏は別として、新たな世界金融危機が起きる可能性はあるのか。

景気後退のリスクと危機のリスクを区別して考える必要がある。景気後退はリスクというより、これから1年半〜2年後には不可避なものだ。米経済はこの先、現在ほどの好調を長く維持することはできないだろう。

一方、世界的な経済危機を引き起こすリスクという意味では、イタリアはかなり高いランクに位置付けられると思う。新興国も世界的な危機の引き金となる可能性は高い。中国の状況には誰もが毎日目を配るべきだ。中国をはじめとする新興国は、現在世界の成長の牽引役となっている。それにこれらの国はもう「新興」ではない。世界の成長の65%以上を占めるのだから。

従って世界経済の先行きを心配するなら、注目するべき場所は一にも二にも中国だ。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2018年11月6日号掲載>

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

為替円安、行き過ぎた動きには「ならすこと必要」=鈴

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中