最新記事

日本企業

スバル、新たなリコールに加え米通商問題のリスク 経営体力耐えきれるか?

2018年11月5日(月)16時00分

11月5日、SUBARU(スバル)に新たな米国リスクがちらつき始めた。写真は同社のロゴ。米デトロイトで1月撮影(2018年 ロイター/Jonathan Ernst)

SUBARU(スバル)に新たな米国リスクがちらつき始めた。同社が1日発表したエンジン部品のリコール(回収・無償修理)は国内だけでなく、米国など海外にも対象が及ぶ。とりわけ懸念されているのが世界販売の約6割を占める米国での動きだ。かつて急成長のツケとして大量のリコールと訴訟、制裁金などに苦しんだトヨタ自動車と重ね合わせ、スバルがその轍(てつ)を踏む可能性を危惧する声もある。

スバルは米国では、通商問題という「爆弾」も抱えている。同国で販売する車の約半分を日本から輸出している同社にとって、日米通商交渉が関税引き上げという結果になれば、収益への一段の重圧は避けられそうにない。

販売急拡大のひずみとの見方

今回のリコールは、スバル車の人気を支える「水平対向エンジン」に使われている「バルブスプリング」という部品が原因で、同社によると、設計が不適切だったという。事故は確認されていないが、国内で94件、海外で約130件の不具合情報が寄せられており、最悪の場合、走行中にエンジンが停止する恐れがある。

リコール対象は、国内では「インプレッサ」、「フォレスター」、「BRZ」、BRZの兄弟車として共同開発されたトヨタの「86(ハチロク)」の計4車種、海外では「レガシィ」も含まれ、計41万台。スバル車は国内で約10万台、米国で約14万台、カナダで約2万台、欧州などその他の地域で約10万台。トヨタの「86」が5万台ある。スバルの17年度の世界販売は約107万台で、リコールは年間販売の半分近い規模だ。

昨秋以降、完成車の検査不正問題に揺れ続けたスバル。それに追い打ちをかける形で発覚したエンジン部品の不具合について、同社は5年以上前から情報を把握していたという。

「兵站(へいたん)線が伸び切っている」――。トヨタが急速に世界展開と車種拡大を進めた2005年ごろから、同社の経営陣がよく口にしていた表現だ。成長スピードに人や組織が追いついていなかった状態を意味する。トヨタは09年から10年にかけて品質問題に揺れ、世界規模のリコールや自主回収により、延べ1000万台もの改修を余儀なくされた。

スバルの世界販売はトヨタの10分の1ほどの規模だが、ここ約10年で倍増している。SBI証券の遠藤功治シニアアナリストは、販売拡大のスピードに現場がついていけなかったことが今回のリコールの背景にあるとすれば、「今後もリコールは出る恐れがあり、関連費用は増える可能性がある」と警戒する。

特に、スバルが破竹の勢いで売り上げを伸ばしてきた米国は訴訟大国だ。今後、重大なリコールが起きれば、リコール費用はもとより裁判費用、罰金、和解金など数十億ドル単位でかさみかねない。トヨタほどの経営体力がないスバルには「とても耐え切れない」と遠藤氏は話す。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中