最新記事

ISSUES2019

2019年の中国を読む:「新皇帝」習近平の内憂外患

CHINA IN 2019: WHAT LIES AHEAD?

2018年12月26日(水)17時35分
ミンシン・ペイ(クレアモントマッケンナ大学ケック国際戦略研究所所長)

magSR181226-3.jpg

南シナ海の南沙諸島で中国が建設した人工島 ERIK DE CASTRO-REUTERS

当面、3月1日までに貿易協定が整う可能性は低い。こんな短期間で複雑な貿易問題を解決することは困難だ。しかもアメリカ側の通商代表ロバート・ライトハイザーは対中強硬派だ。

アメリカは中国流の産業政策を批判し国有企業への補助金の停止を要求しているが、中国は同意しそうもない。アメリカが要求する厳しいコンプライアンスと制裁規定こそ、中国側には非常に不平等なものと映る。

貿易交渉が再び失敗すれば、その経済的な衝撃は中国のみならず世界中に及ぶ。まずは中国の経済成長率に影響が及び、現在の6%台から5%以下に低下する可能性がある。

金融緩和で成長を押し上げようとしても、公的債務がGDP比で300%に達していることから、効果は限定的だ。中国の国際収支は対米輸出の減少とともに悪化し、通貨・人民元の価値は中国から資本が逃げ出すにつれ、再び下落する。

習はあらゆる手を使ってこうした悪夢のシナリオを避けようとしている。彼が交渉の席で譲歩し、トランプとの貿易協定を結ぶことができれば、危機は一時的に回避されるだろう。

だが残念なことに、米中貿易戦争が休戦しても経済の悩みは解決されない。債務の大きさ、需要の縮小、競争力の低下からすると、中国の経済成長は今後も低迷するだろう。

国民は軌道修正を望む

習の経済政策は綱渡りにならざるを得ない。経済の健全化には公的債務の削減と構造改革が必要だが、そこに踏み込めば短中期の成長は抑制される。

強引に進めれば多くの企業の資金は干上がり、製品への需要は減り、破産に追い込まれるだろう。一方、既に借金漬けになっている中国経済に一段の資金をつぎ込んで瀕死の企業を救済すれば、いずれ成長は止まり、将来の危機が深刻化する。

その間にも、アメリカは技術の優位性を保護するために、中国のハイテク産業にさらに圧力を加えるだろう。この点で2019年に注目すべきは、カナダで逮捕されたファーウェイの孟の運命だ。カナダ当局が彼女をアメリカに引き渡せば、中国はカナダに手厳しい報復をするだけでなく、米中関係に新たな危機が訪れる。

2019年に米中関係は底を打つまで悪化し続けるだろう。そして習は、アメリカに強力な対中連合をつくらせないように、外交政策に戦略的な調整を加えるとみられている。習の新たな微笑外交の標的は東アジア、特に日本だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円下落、予想上回る米雇用コスト受けド

ビジネス

米国株式市場=下落、FOMCに注目

ビジネス

米アマゾン、第2四半期売上高見通し予想下回る

ビジネス

米コカ・コーラ、通期売上高見通し引き上げ 第1四半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 8

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    日銀が利上げなら「かなり深刻」な景気後退──元IM…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中