最新記事

人体

塩分の摂取過多が認知症リスクを高める!?腸と脳とのつながりについて解明すすむ

2018年12月11日(火)17時20分
松岡由希子

塩分過多による高血圧のみが認知症リスクを高めるわけではない Jolygon-iStock

<塩分摂取量の管理は、認知症予防の観点からも重要であることが、近年、明らかになってきた>

「高血圧患者は認知症にかかるリスクが高い」

塩分摂取量の管理は、心臓血管系の健康維持のみならず、認知症予防の観点からも重要であることが、近年、明らかになってきた。これまでの研究結果により、塩分の過剰な摂取は、脳卒中や心血管疾患のほか、血管性認知症の主要な原因である脳小血管病のリスクを高めることがわかっている。

塩分を過剰に摂取すると、血液の浸透圧を一定に保つために血液中の水分が増えるため、体内に循環する血液量を増やそうという作用が働き、これによって、血圧が上がりやすくなる。2018年6月に発表された伊ローマ・ラ・サピエンツァ大学の研究結果では「高血圧患者は認知症にかかるリスクが高い」ことが明らかになった。

塩分過多による高血圧のみが原因ではない

しかしながら、塩分過多による高血圧のみが認知症リスクを高めるわけではない。食生活と認知機能障害とを結びつける脳と腸との新たな関係性も明らかになっている。

米ワイルコーネル医科大学の研究チームは、2018年1月、学術雑誌「ネイチャー・ニューロサイエンス」で研究論文を発表し、マウス実験を通じて、塩分の過剰摂取が大脳の血流や血管内皮機能を抑制し、認知機能障害を引き起こすことを示した。

塩分を過剰に摂取すると、組織の免疫や炎症応答において重要な役割を担うTh17細胞が小腸で増殖し、Th17細胞によってインターロイキン17(IL-17)が多く生成され、インターロイキン17が体内に循環することで、内皮機能不全や認知機能障害を促すという。

1日あたり5グラム未満に

それでは、適正な塩分摂取量は、いったいどれくらいなのだろうか。

厚生労働省の2015年版「日本人の食事摂取基準」では、18歳以上の男性は1日あたり8.0グラム未満、18歳以上の女性は1日あたり7.0グラム未満と定めている。また、世界保健機関(WHO)は「塩分摂取量を1日あたり5グラム未満にすると、血圧が下がり、心血管疾患や脳卒中、心臓発作のリスクを軽減できる」と提唱する。

一方、加マックマスタ--大学の研究結果では「塩分摂取量が心血管疾患や脳卒中と関連するのは、塩分摂取量が1日あたり5グラム超の場合である」ことが示されており、塩分摂取量を少なくすればするほど健康効果が上がるというわけでもないようだ。

腸と脳を結びつける微生物、免疫系、神経系の役割が明らかに

塩分摂取量の管理においては、体内が発する"メッセージ"に注意を払うことも必要かもしれない。フロリダ州立大学の研究結果では「腸から脳へのフィードバックが、感情を変化させ、行動への動機付けを行う」ことがわかっているほか、米デューク大学の研究チームは、摂取した食物の情報を腸から脳に伝達する新たな回路を発見している。

今後、腸と脳を結びつけている微生物、免疫系、神経系の役割や相互作用が明らかにされていくにつれて、既存の治療法や予防医学のアプローチにも影響がもたらされそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル一時153.00円まで4円超下落、現在154円

ビジネス

FRB、金利据え置き インフレ巡る「進展の欠如」指

ビジネス

NY外為市場=ドル一時153円台に急落、介入観測が

ビジネス

〔情報BOX〕パウエル米FRB議長の会見要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中