最新記事

ベネズエラ

独裁者マドゥロを擁護する「21世紀の社会主義」の無責任

The Left Keeps Venezuela Wrong

2019年2月15日(金)17時10分
ジェームズ・ブラッドワース(ジャーナリスト)

反トランプならOK?

アメリカの介入に反対しつつも、ベネズエラの独裁体制を批判することは可能だ。バーニー・サンダース米上院議員は、社会主義者なら独裁者でも擁護するべきだという考えをきっぱり否定する声明を発表している。1月末にはアメリカの介入を牽制する一方で、マドゥロ政権は「ベネズエラの市民社会を弾圧している」と明確に批判した。

だが、残念ながらサンダースは例外的存在だ。反帝国主義者の多くは、独裁者でも反帝国主義を唱えており、その横暴が国内にとどまっている限り、独裁者の肩を持つ悪い癖がある。

ソマリア難民のイルハン・オマル米下院議員は1月、「アメリカの支援でクーデターが起きても、ベネズエラの悲惨な問題の解決にはならない。トランプが担ぐ極右野党は、暴力を悪化させ、地域全体を不安定化させるだけだ」とツイートした。

しかし彼女のような左派の反帝国主義者たちが、ウクライナやシリアやベネズエラで命を懸けて残虐な体制に立ち向かう人たちに連帯感を示すことはない。それどころか反体制派を「ファシスト」「首切り屋」などと呼び、ベネズエラでは「極右過激主義者」などと中傷する。

1月後半に入っても、極左思想の持ち主たちは、ベネズエラで起きている事をクーデターと呼ぼうとした。これはベネズエラの現状を深く誤解している。この国でクーデターに最も近い事が起きたのは、17年にマドゥロが民主的に選ばれた国民議会から立法権を剝奪したときだ。

本物の帝国の介入を無視

ジャーナリストのフランシスコ・トロは1月末、ワシントン・ポスト紙への寄稿で、マドゥロは13年に大統領に選出されて以来、「民主的な権力抑制・均衡のシステムを廃止する措置を取ってきた」と指摘している。「その最たるものは、マドゥロの支持者だけが勝利できるよう操作された制憲議会だ」

野党がボイコットした18年のベネズエラ大統領選は、「自由かつ信頼できる選挙の最低限の条件を一切満たしていない」と、ゼイド・フセイン国連人権高等弁務官(当時)は評している。

反帝国主義を唱える極左勢力は、実のところ、帝国主義者にとって都合のいい存在に自らをおとしめている。彼らは、欧米諸国の介入という不安をあおることで、本物の強力な帝国が弱体化した国に不当に介入するのを無視するか、さほど深刻でないかのように扱ってきた。

シリアにおけるロシアとイランの介入は、まさにこの構図をなぞっている。ベネズエラでも、ロシアが数十億ドル相当の武器を供給し、マドゥロのボディーガードとなる傭兵を派遣している。さらに大量のキューバの情報工作員が、ベネズエラ野党や警察内の反体制派に対するスパイ活動を支援している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中