最新記事

報道

フィリピン当局、元CNN著名記者を名誉棄損で逮捕 批判的なメディアへの強硬姿勢明らかに

2019年2月14日(木)17時50分
大塚智彦(PanAsiaNews)

ひと晩だけで釈放されて報道陣に囲まれるマリア・レッサさん Eloisa Lopez / REUTERS

<政権批判をするメディアに圧力を加えるドゥテルテ。だがその行動自体が、メディアの主張を裏付ける形となっている>

フィリピンのニュースウェッブサイト「Rappler(ラップラー)」の創業者で最高経営責任者(CEO)、編集長でもある元米CNNの著名記者、ジャーナリストのマリア・レッサさん(55)が2月13日午後、国家捜査局(NBI)によって名誉棄損の容疑で逮捕されたものの、レッサさんは14日午前に保釈金10万ペソ(約21万円)を支払って釈放された。

今回の逮捕容疑は、NBIによるとラップラーが2012年3月に掲載した「実業家と最高裁判事の不適切な関係」を指摘した記事が発端になった。実業家側からの名誉棄損に当たるとの申し立てを司法省検察当局が受理、捜査の結果「サイバー犯罪法に抵触する可能性がある」と判断。これに基づいてマニラ地裁支部から出された逮捕令状によってレッサさんは逮捕された。

2月13日午後5時頃、マニラ首都圏のパシグ市にあるラップラー本社のある建物に私服のNBI係官が入り、レッサさんに対する逮捕状を執行した。その際、周囲のラップラー関係者に対し「写真、動画の撮影を禁じる」としたものの、逮捕の様子は撮影されてすぐにマスコミ各社に配信された。

レッサさん側は13日中に保釈金を支払っての釈放を目指したが、裁判所がすでに夜間で閉鎖されていたために手続きができず、レッサさんは一晩を拘留施設で過ごした。

14日朝、裁判所の執務開始時間を待ってレッサさんはマニラ地裁第46支部で保釈金を支払い自由の身となった。NBIの13日の逮捕は裁判所の執務終了時間を考慮したものとの見方が出ており、「あからさまな人権侵害である」との批判も起きている。

2月14日の地元紙「インクワイアラー」によると、レッサさん逮捕の一報を受けた元同僚でCNN看板記者のクリスチャン・アマンプールさんは「逮捕は絶望的な措置である。政府がジャーナリストを逮捕するというのは、その政権の無茶苦茶で絶望的な措置であり、速やかに釈放を求める」と反応、即時釈放のエールをツイッターでおくった。このほかに国際的な人権団体をはじめフィリピンの記者協会、野党の上院議員などからも逮捕に対する「非難が殺到」したことも当局にプレッシャーを与え、ひと晩だけで釈放となったものとみられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

24年の独成長率は0.3%に 政府が小幅上方修正=

ビジネス

ノルウェー政府系ファンド、ゴールドマン会長・CEO

ビジネス

米株「恐怖指数」が10月以来の高水準、米利下げや中

ビジネス

中国大手銀5行、25年までに損失吸収資本2210億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中