最新記事

人権問題

ベトナムの人権活動家、当局がタイで拉致? 米朝会談が影響との推察も

2019年2月7日(木)17時55分
大塚智彦(PanAsiaNews)


ベトナムのメディアはナット氏の事件について「ブロガーで元政治犯のトゥルオン・ドゥイ・ナットがタイで連絡を絶った」と伝えている VIETLIVE.TV / YouTube

受難続くベトナムの人権活動家、ブロガー

ベトナムでは一党独裁の共産党政府の人権侵害や報道規制に対する批判は容認されていないことから、活動家やブロガーなどへの「弾圧」が続いている。

2018年8月9日には女性人権活動家でブロガーでもあるフィン・トゥク・ヴィーさんが逮捕されたのに続き8月16日には人権活動家レ・ディン・ルオン氏が国家転覆容疑で禁固20年の実刑判決を受けた。同年9月には活動家のグエン・ヴァン・トゥック氏が同様の容疑で禁固13年、同月17日には同じく人権活動家のドン・コン・ドゥオン氏が社会秩序混乱容疑で禁固4年の判決を受けている。

こうしたブロガーや活動家の相次ぐ逮捕、実刑判決による「言論封殺」に関して「国境なき記者団」(本部パリ)のダニエル・バスタート氏は、「タイ政府、捜査当局がもしこの件で何もしないのであれば問題である」としてタイ政府、関係機関にナット氏に関する捜査を要求するとともに、ナット氏と同じ境遇にあるタイで活動するベトナム人ブロガーや活動家に注意と警戒を呼びかけている。

タイ国内で活動するベトナム人活動家のひとりは、「今回のナット氏の事案は非常にセンシティブで複雑な問題を含んでおり、私自身の身に危険が及ぶ可能性もあって情報発信が難しい」と話しており、そうした国外活動家の安全になんらかの影響と懸念が生じていることを裏付けている。

米朝首脳会談に向けたベトナム政府の意向が今回のナット氏の「拉致」にも関係があるとすれば、首脳会談の開催を歓迎するベトナム側がその裏で密かに「言論弾圧と人権侵害」を強化しているとみられる。

RFAがすでに米国務省にナット氏の件に関する情報を提供していることから、米政府も問題を把握しているものとみられる。

さらに2月5日にワシントンDCの米議会でトランプ大統領が行った一般教書演説の議場には、民主党側のゲストとして2018年7月にベトナムで「反政府活動」容疑で身柄を拘束された米国人男性の妻が招待されるなど、米国内ではベトナムの人権問題への関心もが高まっている。

それだけに「人権外交」がお家芸である米政府がベトナム政府に対して問題提起するのか、あるいは米朝会談に不測の事態が外野から起きないよう黙認してしまうのか。関係者は米朝会談とともに今回の事件についてもその行方に大きく注目している。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中