最新記事

環境問題

インドネシア、新種オランウータン生息地に中国資本でダム建設 環境団体の建設中止訴えを裁判所は却下

2019年3月6日(水)20時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

2017年に発見されたばかりのタパヌリ・オランウータンが絶滅の危機に…… (c) Tim Laman

<2017年に発見されたオランウータンが中国との合弁事業で絶滅の危機に>

インドネシア・スマトラ島北スマトラ州のメダンにある州裁判所は3月4日、南タパヌリ州で建設計画が進んでいる「バタントルダム」に対して国内最大の環境保護団体などが求めていた建設中止の訴えを却下する判断を下した。ダム建設が計画されている地域では2017年に新種のオランウータンが見つかり「タパヌリ・オランウータン」と命名されて、保護の必要性が早くから課題となっていた。

ところが地元住民への詳しい説明もないまま、中国銀行など外国金融機関による資金援助を受けたインドネシア企業と中国企業による合弁のダム建設計画が明らかになった。建設予定地が地震発生の可能性のある地盤構造であることに加えて、個体数が800頭と絶滅の危機に瀕している大型類人猿の生息地域に近いこともあり、インドネシアの環境保護団体「ワルヒ」が国際社会の支援も受けて、今年初めにダム建設中止を裁判所に訴えていた。

裁判所は4日、「バタントルダムの建設計画に関してはすべての必要な書類が用意・承認されており、許認可関係もクリアされている。従って建設を中止する根拠はない」とワルヒの建設中止の訴えを却下した理由を明らかにしている。

さらに、地震の可能性がある地盤構造に関しては「そうした地下構造の上に構造物を建築することを禁じる法律はない」との判断理由を示した。

【関連記事】新種のオランウータンを密猟と環境破壊から守れ

環境破壊は最小限と裁判所、政府は主張

肝心の「タパヌリ・オランウータン」の生息環境(エコシステム)へダム建設が与える影響に関しては「ダム建設はラン・フォー・リバー方式(流し込み方式)を採用するなど、建設予定地の周辺環境には特段の配慮がなされ、オランウータンの生息地への影響もワルヒが訴えるほど深刻とは言えない」との判断で却下したことを明らかにした。

これに対しワルヒ・北スマトラ支部のダナ・プルマ・タリガン支部長は「今回の州裁の判断は環境に対する公平性や正義をまったく反映していない。従ってさらに上級の裁判所に訴えることに加えて、ありとあらゆる法的手段で反対を訴えることを検討している」と地元紙に話し、さらなる反対運動の展開に向けた決意を表明している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

J&J、1─3月売上高が予想届かず 医療機器と主力

ビジネス

米BofA、第1四半期は減益も予想上回る 投資銀行

ビジネス

HSBC、アジア投資銀行部門で10数人削減 香港な

ワールド

トランプ氏、経済運営ではバイデン氏より高い評価=米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 2

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア黒海艦隊「主力不在」の実態

  • 3

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 4

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    【画像・動画】ウクライナ人の叡智を詰め込んだ国産…

  • 10

    【地図】【戦況解説】ウクライナ防衛の背骨を成し、…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 5

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 6

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 7

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中