最新記事

中東政策

ゴラン高原の主権をイスラエルに認めると何が問題なのか

Trump Recognizes the Golan Heights as Israeli Territory

2019年3月22日(金)17時05分
ニコール・グッドカインド

ゴラン高原は砂漠地帯としては珍しい肥沃な土地で知られ、貴重な水資源を持ち、イスラエルの水供給の3分の1をカバーする。イスラエルにとっては、シリア軍の動きを監視・反撃するための重要拠点にもなっている。

現在、およそ30の入植地が建設され、約2万人のユダヤ人入植者が暮らす。専門家の推計によれば、約2万人のシリア人も暮らすが、その大半はシリアでは少数派のイスラム教ドルーズ派の住民で、シリア政府と対立関係にあると見られている。イスラエル国籍も拒否して無国籍になった者もいるという。

ロシアのクリミア併合も認めることになる

トランプの表明には、軍事的な懸念も浮上している。イスラエルは今年に入ってシリア国内にある宿敵イランの複数拠点を攻撃するなど、周辺国との情勢が不安定になっている。その最中、トランプの発言に挑発されたシリアやロシア、イランがイスラエルへの包囲網を狭め、イスラエルを攻撃でもすれば、中東情勢が大きく複雑化する恐れがある。

さらに、ロシアによる一方的なクリミア半島併合を批判してきたアメリカの立場も傷つく。「(トランプがゴラン高原でイスラエルの主権を認めれば)武力併合は違法とする国際法の原則に基づいて、アメリカがロシアを批判していくことが今後は難しくなる」と、米シンクタンク「センター・フォー・ア・ニュー・アメリカン・セキュリティ(CNAS)」で中東の安全保障ディレクターを務めるイラン・ゴールデンバーグはツイートした。「アメリカは立場を失い、ロシアがそれを逆手に取るはずだ」

トランプのツイートは、米政府による承認の具体的な措置に触れていない。だが総選挙を控えたネタニヤフが有権者の支持を取り戻すには、大きな追い風だ。

(翻訳:河原里香)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産

ビジネス

焦点:米国市場、FOMC後も動揺続く恐れ 指標の注

ビジネス

住商、マダガスカルのニッケル事業で減損 あらゆる選

ビジネス

肥満症薬のノボ・ノルディスク、需要急増で業績見通し
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中