最新記事

世界が尊敬する日本人100人

夢破れて31歳で日本を出た男が、中国でカリスマ教師になった:笈川幸司【世界が尊敬する日本人】

2019年4月25日(木)16時50分
森田優介(本誌記者)

magSR190425japanese-oikawa-2.jpg

COURTESY OF KOJI OIKAWA

独自の教授法で、発音指導とスピーチ指導に力を入れる

笈川は他の日本語教師からも学びながら、独自の教授法を完成させていく。特に力を入れているのは、発音指導とスピーチ指導だ。中国人にとって日本語の読み書きはさほど難しくないが、笈川によれば、発音に関しては欧米人と比べても、なかなか自然な日本語にならないという。

だがそんな中国の学生たちも、笈川独自の発音のメソッド、話の組み立て方、人前で緊張しないで話す方法という3本柱による授業で、短期間に見る見る上達していく。北京の複数の大学で教え、日本語スピーチコンテストの優勝者を200人以上輩出してきた笈川は、カリスマ教師として次第に名が知られていく。

中国全土で日本語を学ぶ学生は約10万人。笈川はもっと多くの人に教えたいと、2011年から手弁当で中国各地の大学を回り、講演会や集中講義を行う活動を始めた。2014年には東京大学で日本語教育専門家たちの前で講演をする機会もあり、活躍の場がさらに広がった。

これまでに中国と日本以外でも、講義をタイ、ニュージーランド、ペルー、メキシコ、アメリカ、ハンガリー、フランス、イギリス、ロシア、チリの10カ国で実施。講演会は30カ国で行っている。

なぜここまで支持を集めるのか。長く日本語教育学会の副会長を務め、日本語教師の育成にもあたってきたアクラス日本語教育研究所の嶋田和子代表理事は、学習者一人ひとりを大切にする笈川の姿勢を称賛する。

「日本でもまだその傾向があるが、中国では特に、教師が一方的に教えるスタイルが一般的だ。彼はそんな中国で、上から目線ではない授業をしてきた」と、嶋田は評する。

「教え方に独特なところがあり、また、学習者に寄り添って授業を作っているのが分かる。学生が100人いても全員の名前を覚えて呼ぶという姿勢で授業を進めているのは素晴らしい。教科書を教えるのではなく教科書で教えるべきだ――これは以前から言われているが、まだ浸透していない。日本語教育はそうあるべきで、私も共感している」

「7%くらいの学生は思い通りに上達していない」

忘れてならないのは、笈川の元漫才師という経歴だ。彼自身、「私がスピーチ指導をするときは、芸人のネタ見せのような状況を作っている」と言う(ネタ見せとは、芸人が大勢の人の前で自分のネタを披露するオーディションのこと)。

教え子の張も、そんな笈川から、人前でどうやって話せばいいかについて的確なアドバイスをもらった。嶋田も昨年、笈川に声を掛けて小規模な講演をしてもらい、彼の話のうまさ、人の心をつかむ話術に感心したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日仏、円滑化協定締結に向けた協議開始で合意 パリで

ワールド

NATO、加盟国へのロシアのハイブリッド攻撃を「深

ビジネス

米製造業新規受注、3月は前月比1.6%増 予想と一

ワールド

暴力的な抗議は容認されず、バイデン氏 米大学の反戦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中