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ブレグジット

残留へと傾き始めたイギリスの変心にEUは期待する

Delay May Mean No Brexit, Hopes EU

2019年4月19日(金)13時30分
オーエン・マシューズ

一方のメイは、関税同盟への残留も2度目の国民投票についても、可能性を強く否定している。だがメイは、既に現実になった多くの事柄についても可能性を否定していた(ブレグジットの期日延期もその1つだ)。

さらに今のメイは、議会での審議もコントロールできなくなっている。自ら率いる保守党も、政府案に反対する造反議員が数十人出ることが珍しくなく、制御できているとは言い難い。

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ロンドンの国会議事堂の前でEUの旗を振る残留支持派(4月11日) GONZALO FUENTESーREUTERS

メイの権威は失墜し、守られなかった約束も増えるばかりだ。ブレグジット期限延長の最初の犠牲者は、もしかするとメイ自身になるかもしれない。

「(メイは)ブリュッセルで時間稼ぎを懇願して自ら恥をかき、国にも恥をかかせた」と、保守党の離脱支持派であるマイケル・ファブリカント議員は10日夜、記者団に語った。「ここから保守党の支持を得て持ち直そうなどと期待すべきではない」

保守党は昨年12月、メイに対する党首としての信任投票を実施した。これによってメイを党首の座から引きずり降ろそうとしたが、彼女は信任された。党の規則により、1年間は信任投票を再実施できない。

だが既に造反議員たちは、党規則を変更してメイを追い落とそうと、草の根の党員約1万人の署名を集めて運動を展開し始めている。ただしメイに代わる新しい党首が誕生しても「何も変えられないだろう」と、保守党の反メイ派の元閣僚は言う。「(新党首は)強硬な離脱支持者になる。保守党の強硬派は、みんなブレグジットを望んでいるからだ」

労働党がメイの離脱案を支持せず、新しい保守党党首がメイよりも強硬な離脱支持派になるのなら、イギリスがこの混迷を脱出する方法は2つしかないだろう。ブレグジットの是非を問う総選挙か、国民投票だ。

カギを握る2つの選挙

どちらも保守党にとって望ましい展開ではない。カンター社が4月上旬に行った世論調査では保守党の支持率は32%と、3月の41%から急降下。労働党の支持率は、31%から35%に上昇している。

同じ調査で、ブレグジットについて国民投票のやり直しを支持する回答者は51%で、反対は32%にとどまった。EU残留を支持する人は41%、離脱支持は35%、「決めていない」が9%だった。

イギリスの命運を決するために集まったEU加盟国首脳のうち、フランスのエマニュエル・マクロン大統領だけが離脱の遅れが長引くことに反対した。イギリスがEU加盟国である状態が続くと、自身が提唱しているEU改革案が邪魔されかねないというのだ。

「私たちはヨーロッパの再生を進めている。ブレグジットによって、それを阻まれたくはない」と、マクロンは首脳会談前の記者会見で語った。

6カ月の期限延長は妥協の産物と言えた。ドイツのアンゲラ・メルケル首相を含む参加者の大半は、イギリスにもう1年与えて、方針を整理させたいと考えていた。

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