最新記事

宇宙

国際宇宙ステーションは細菌にあふれていた

2019年4月10日(水)18時30分
松岡由希子

細菌がISSのインフラの安定性を損なわせる可能性がある...... (NASA)

<NASAジェット推進研究所の研究チームは、国際宇宙ステーション内に細菌が多数存在し、宇宙飛行士だけでなくISSのインフラにも悪影響を及ぼす可能性があることがわかった>

国際宇宙ステーション(ISS)には様々な細菌や真菌があふれている──。このほどアメリカ航空宇宙局(NASA)の研究チームが明らかにした。

NASAジェット推進研究所カスツーリ・ヴェンカテーシュワラン博士らの研究チームは、国際宇宙ステーション内の細菌および真菌の種類や数についてまとめ、2019年4月8日、オープンアクセスジャーナル「マイクロバイオーム」で研究論文を発表した。これによると、ブドウ球菌やパントエア菌、桿菌などの細菌のほか、ロドトルラ・ムチラギノーザをはじめとする真菌が国際宇宙ステーションに多数存在しているという。

宇宙飛行中、免疫力が低下したとき問題に

研究チームでは、2015年3月4日と5月15日、国際宇宙ステーションで任務中のテリー・バーツ飛行士に、窓やトイレ、ダイニングテーブル、貯蔵庫など、ISS内の8カ所でサンプルを採集してもらい、2016年5月6日にも、ジェフリー・ウイリアムズ飛行士に同様のサンプル採集を行わせた。これらのサンプルを分析したところ、ISSには様々な細菌や真菌が存在し、その多くがヒトの微生物叢であったことがわかった。

matuoka0410a.jpgKasthuri Venkateswaran-microbiome


このなかには、ヒトの皮膚や鼻腔に存在する黄色ブドウ球菌や、消化管に存在するエンテロバクターなど、正常な宿主には病原性を発揮しないが免疫力の低下した宿主に感染し発症させる日和見病原体も含まれており、地上のフィットネスセンターやオフィスビル、病院などと似た環境であった。

地上の屋内空間では、アレルギーや感染症、シックハウス症候群など、特定の微生物がヒトの健康に影響を与えることがある。このことは、宇宙飛行中、免疫力が変化し、地上と同等の医療機関を利用できない宇宙飛行士にとって、より留意すべき問題といえる。

国際宇宙ステーションのインフラの安定性を損なわせる

国際宇宙ステーションで検出された微生物の多くは、バイオフィルム(菌膜)を形成していた。バイオフィルムは抗生物質への耐性を促進するため、宇宙飛行士がひとたび感染すると健康に影響を及ぼす可能性がある。また、バイオフィルムの形成によって、機械の障害の原因となったり、伝熱効率を下げたり、微生物腐食を引き起こすなど、国際宇宙ステーションのインフラの安定性を損なわせるおそれも懸念されている。

研究チームは「国際宇宙ステーションでのバイオフィルムの形成力やその大きさについて解明することは、長期ミッションにおいて国際宇宙ステーションの安定性を維持させるうえでも重要だ」と説いている。

これまでに世界21カ国236名の宇宙飛行士が滞在した......

国際宇宙ステーションでは、1998年11月に最初の構成要素が打ち上げられて以来、これまでに世界21カ国236名の宇宙飛行士が滞在しており、ヒトの微生物叢を中心とする様々な細菌や真菌が存在することは想像に難くない。

この研究成果は、国際宇宙ステーションの細菌や真菌の状況を包括的に解明したという点で、今後、国際宇宙ステーションやその他の長期ミッションでの安全対策の構築に役立ちそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英アングロ、BHPの買収提案拒否 「事業価値を過小

ビジネス

為替、基調的物価に無視できない影響なら政策の判断材

ビジネス

仏レミー・コアントロー、1─3月売上高が予想上回る

ビジネス

ドルは156.56円までさらに上昇、日銀総裁会見中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中