最新記事

台湾

鴻海会長、台湾総統選に出馬表明 弱点は「中国」コネクションか

2019年4月22日(月)09時00分

4月18日、来年の台湾総統選への出馬を表明した鴻海精密工業の郭台銘会長(写真)は、台湾政界に一切しがらみがなく新鮮味がある。台北で16日撮影(2019年 ロイター/Tyrone Siu)

来年の台湾総統選への出馬を表明した鴻海精密工業の郭台銘会長(68)は、台湾政界に一切しがらみがなく新鮮味がある。しかし鴻海をゼロから世界最大の電子機器受託製造会社に育て上げる過程で培った中国との強い結びつきが、選挙戦で弱点になりそうだ。

富豪の郭氏は米国とのネットワークもあり、トランプ大統領とは親しい。しかし同氏と習近平国家主席をはじめとする中国指導部とのつながりの深さに比べればかすんでしまう。また鴻海は中国国内の工場で、米アップル向けに部品を製造している。

台湾の長栄大学のシェーン・リー氏(政治学)は「郭氏は中国にたくさんの財産を抱えているので、中国側は郭氏のある程度コントロールできる。そのため米政府は郭氏の出馬に神経を尖らさざるを得ないだろう」と述べた。

台湾の多くの一般市民は、中国共産党が「1つの中国」実現のための台湾への武力行使を辞さず、絶えず政治的な工作を続けていることを脅威だと感じている。15日には中国の爆撃機と軍艦が台湾の周囲で演習を行い、台湾が戦闘機を緊急発進させ、緊張が高まった。

一部のアナリストは、台湾の一般的な有権者は中国政府との結びつきを理由に郭氏を敬遠するとみている。有権者は、台湾の独立を掲げる与党・民主進歩党の現職の蔡英文総統か、野党・国民党の候補のいずれかを選択せざるを得ない。

コンサルタント会社クォンタム・インターナショナルのシニアアドバイザー、ジョン・ブレベック氏は郭氏について「台湾で最も有能なビジネスマンの1人だ。問題は中国で多くの事業を展開していることで、有権者は郭氏が何を最も重視するか不安を抱き、この点が郭氏にとって逆風になり得る」と指摘した。

台湾では、代々台湾に住み暮らしてきた人々の子孫である「本省人」と、第二次世界大戦後に中国の共産党政府から逃れて台湾に移り住んだ「外省人」を分ける考えが残っている。郭氏は両親が中国の生まれで、自身は台湾で生まれた。

郭氏は昨年の人民日報のインタビューで、父親が中国の陝西省、母親が広東省の出身であることに言及。1987年に両親の出生地を訪れ、「初めて母国の土を踏んだ」と述べた。また「通りには改革・開放の機運がみられ、非常に感銘を受けた」と中国の政策を称賛した。

郭氏は2014年に北京で習国家主席と面談しており、台湾メディアは郭氏が習首席を偉大な指導者だと評したと報じた。

蔡氏の民主進歩党は既に郭氏は中国との結びつきがアキレス腱だとみている。蔡総統の上席アドバイザーの姚嘉文氏は「郭氏は極めて中国寄りで、富裕層を代表している。市民の支持は得られない」と語り、郭氏は実業家の面が選挙戦で障害になるとの見方を示した。

(Yimou Lee記者)

[台北 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中