最新記事

韓国

文在寅肝いりの現代自動車「低賃金」工場は、韓国の雇用を変えられるか?

2019年4月23日(火)10時40分

4月16日、かつて韓国光州市で起亜自動車労働組合のトップだったパク・ビュンキュ氏(53)は、急速な工業化時代に経済を牛耳っていた同族支配の強大な「チェボル(財閥)」を相手に、労働者の保護を求めて戦った。写真は光州市1月、合弁工場の計画に抗議する起亜自労組の組合員ら。同労組提供(2019年 ロイター)

かつて韓国光州市で起亜自動車労働組合のトップだったパク・ビュンキュ氏(53)は、急速な工業化時代に経済を牛耳っていた同族支配の強大な「チェボル(財閥)」を相手に、労働者の保護を求めて戦った。

だが約20年前、別企業の非正規労働者の権利を求める運動に参加したパク氏は、その後、鉄パイプを振るう組合労働者たちに襲撃され、右半身不随となった。

この襲撃を機に同氏は、韓国労組による強硬で、大半が好戦的な手法に愛想を尽かした。こうした手法に対しては、自分たちの権利を守るために他の労働者を犠牲にしているという批判が高まっている。

パク氏はいま、光州市が計画する現代(ヒュンダイ)自動車との合弁事業のために働いている。低賃金の自動車工場を新たに建てるプロジェクトで、現代自が国内に新工場を建設するのは25年ぶりだ。

総工費6億1600万ドル(約690億円)の工場は1000人の雇用を生み出すが、現代自の組合労働者に比べれば賃金は半分以下で、彼らが現在享受している福利厚生の多くも利用できない。

「既得権を持つ労組は変わらなければならない。そうでなければ、彼らの利益も奪われるだろう」とパク氏は言う。「組合労働者は現実を直視するべきだ」

合計生産台数で世界第5位となる現代自及びその系列の起亜自の労組は、新工場建設に反対してストライキや抗議集会を行ってきた。

労組の主張は、新工場によって「質の低い雇用」が生まれ、既存の工場から生産と雇用が奪われる、というものだ。

だが、製造業の雇用が切れ目なく低賃金国へと流出していった経験を持つ光州市では、多くの失業者が、新工場で働きたいと即答する。

中国経済の減速、米国の保護主義、最低賃金の上昇といった状況の下で、アジア第4位の経済である韓国は雇用創出に苦しんでおり、文在寅(ムン・ジェイン)政権にとって雇用は重要な関心事となっている。

文政権は光州市の新工場に対して財政的な支援を行う予定であり、6月までに他の2つの都市でも同様の官民プロジェクトを導入する計画だ。

当局者は、こうしたプロジェクトによって、それでなければ海外に工場を建設するであろう韓国企業が国内回帰することを期待している

政府の出資を受ける韓国労働研究所の上級研究員パク・ミュンジョン氏は、「これは労使関係の問題を解決しようという、大胆な実験だ」と話す。同氏は、光州市のプロジェクトが2014年にスタートしたときから関与している。

官民共同のプロジェクトとして自動車製造工場が建設されるのは韓国では初めてであり、伝統的な労組に加入している自動車労働者にとっては、これまでで最大の脅威に直面する。パク氏によれば、若年層の失業率が過去最高に迫り、経済が低迷する中であっても、こうした労働者は大半が高い賃金・諸手当を維持しているという。

「高コストの労組系雇用は徐々に消滅していくだろう」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中