最新記事

絶滅

ニュージーランドで進む環境破壊、人類入植以来すでに75種が絶滅

2019年5月8日(水)18時00分
松丸さとみ

イギリスの生物学者リチャード・オーウェンと絶滅したモア類の骨格 John van Voorst-wikipedia

<ニュージーランド政府が4年に一度作成している環境報告書によると、人類がニュージーランドにやってきて以来、すでに75種類の動物と植物が絶滅しているという......>

海鳥の9割が絶滅の危機に

ニュージーランドといえば、美しい大自然が残り、それを保護しようという環境意識が高い国......というイメージを持っている人も少なくないのではないだろうか。そんなイメージを覆すデータが明らかになった。ニュージーランドでは多くの動植物が絶滅の危機にあり、国は深刻な環境問題に直面しているというのだ。

ニュージーランドの統計局と環境省はこのほど、4年に一度作成している環境報告書「アオテアロア」の最新版を発表した。

報告書によると、人類がニュージーランドにやってきて以来(マオリは9世紀頃、ヨーロッパ系白人は18世紀末)、すでに75種類の動物と植物が絶滅している。これには鳥類59種、カエル3種、爬虫類2種、昆虫2種、植物7種が含まれる。

モアと呼ばれるニュージーランド産の羽を持たないダチョウ目の鳥はすでに絶滅しており、その絶滅のスピードは「人間が絶滅させた大型動物で最速」だったと報告書は述べている。

matumaru0508a.jpg

絶滅が危惧される飛べない鳥 タカヘ wikipedia

現在絶滅の危機にひんしている動植物は86種類ある一方で、ここ10年で状況が改善したのはわずか26種類にとどまった。

さまざまな動植物の中でも鳥類をとりまく環境は特に深刻で、海鳥90%、岸辺の鳥80%が絶滅の危機にある。

また、ニュージーランド固有の海洋性哺乳類は26%が絶滅のリスクにあるという。

ニュージーランドの海洋生物の生態系が重要な理由について統計局は、同地域に生息する種類の多くが他で見られない固有種であるためだと説明。例えば海鳥の場合、ニュージーランド固有のものは世界最多だとしている。

環境破壊の原因は肥料、灌漑、牛

とはいえ、ニュージーランドの生態系は詳細がまだ分かっていない部分が多く、絶滅したと報告書に記載されているのはほんの一部の動植物に過ぎないと統計局は説明している。今回調査を行った海洋生物についても、全体のうち20%は十分なデータがないためにどういった状態かの評価をつけることができなかったというのだ。


ニュージーランドの独立系環境保全団体フォレスト・アンド・バードのケビン・ヘイグ氏は、この報告書は「ゾッとする」内容であり、対応を「何十年も後回しにして無視してきた結果だ」と英ガーディアン紙に述べた。

ニュージーランドはほぼどの国よりも急速に動植物を失っており、人間は取り返しつかないほどの害を自然に与えているとも話した。

病原性大腸菌などの病原体が水路を汚染

フォレスト・アンド・バードによると、環境を破壊している原因は肥料、灌漑(かんがい)、牛だ。ニュージーランドではここ20年ほどで酪農が著しく盛んになっており、病原性大腸菌などの病原体が水路を汚染し、動植物を絶滅に追いやっているのだとガーディアンは説明する。

また、気候変動の担当大臣を務めるジェームズ・ショー氏(緑の党)は、気候変動も動植物の絶滅危機の原因だと指摘する。ショー氏は、アーダーン政権ではそのため、こうした問題への強力な対抗手段を講じる構えだと説明している。ジャシンダ・アーダーン首相は2017年の選挙の際、次世代の人たちのためにニュージーランドの川や湖を再び泳げるようきれいにすると公約を掲げていた(ニュージーランド地元紙)。

(参考記事)四本足のクジラの祖先が南米ペルーで初めて見つかる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正-4月米フィラデルフィア連銀業況指数、15.5

ビジネス

全国コアCPI、3月は+2.6% 生鮮除く食料の伸

ビジネス

米アトランタ連銀総裁、インフレ進展停滞なら利上げに

ワールド

パレスチナ国連加盟、安保理で否決 米が拒否権行使
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中