最新記事

中国軍事力

南シナ海に五星紅旗掲げる戦略原潜 中国が高める核報復力

2019年5月5日(日)11時30分

米国などの原潜監視に対抗

関連グラフィックス:P-8ポセイドン対潜哨戒機
(クリックで別ウインドウで表示します)

自国潜水艦隊のそうした弱点ゆえに、中国は米国や同盟国による監視活動に対して極度に敏感になっている、と軍事専門家は指摘する。昨年9月末、南沙(英語名スプラトリー)諸島のガベン礁やジョンソン南礁付近で「航行の自由」作戦を実行していた米イージス駆逐艦「ディケーター」に中国の駆逐艦が至近距離まで接近したことは、その一例だ。

さらに、中国は、自国のミサイル艦を追跡しようする外国の潜水艦にも防御を強めつつある。軍事関係者は、中国海軍の「056A型」コルベット艦が南シナ海から台湾とフィリピンの間にあるバシー海峡を通過し、日本の南、フィリピンの東の西太平洋に大規模かつ頻繁に展開していると指摘する。056A型は、5年前にはなかった可変深度ソナー(海中に下ろして曳航する方式のソナー)を搭載し、潜水艦探知能力を高めた最新鋭の「対潜型」艦艇である。

中国は空からもにらみをきかす。潜水艦捜索能力が向上したソノブイを搭載した「Y-8GX6」対潜哨戒機部隊を海南島に配備。またターボプロップ機が、南沙(英語名パラセル)諸島のウッディ島に着陸する姿が確認されている。こうした空からの監視は、以前から頻繁に行われていたが、いまではほぼ常態化して、外国艦艇への「威圧」はいちだんと強まりつつある。

海南島だけでなく、南沙諸島や西沙諸島で実効支配する島や礁にもレーダ・通信施設などを建設した。いずれも、対潜水艦作戦を支援する目的で作られたものだ、と国際戦略研究所(IISS、ロンドン)は昨年2月のリポートで指摘している。

数年前には考えられなかった規模

南シナ海を管轄する南部戦区の司令員に北海艦隊司令員で中将の袁誉柏を昇進させた17年1月の人事も、習指導部が同基地を拠点とする潜水艦作戦を重視している証だと中国の海軍専門家は指摘する。同戦区の司令官に海軍出身者が就くのは初めてのことだった。

こうした中国の動きに対し、米国内の警戒感も高まっている。「晋級戦略原潜は、中国に重要な戦略的能力を生み出す。(我々は)これに対抗しなければならない」。昨年2月、当時の米太平洋軍司令官だったハリー・ハリスは議会証言で指摘した。

この証言を裏付けるように、米国と日本、オーストラリア、英国を含む同盟軍は、中国潜水艦が完全に核武装し核抑止作戦を展開しているとし、東アジア全域で動きを把握しようと懸命だ。米軍はシンガポールや日本に対潜哨戒機P-8「ポセイドン」を配備し、中国原潜に対する空からの監視や偵察活動も強化している。

関連グラフィックス:核弾頭数
(クリックで別ウインドウで表示します)

(日本語版編集:北松克朗、武藤邦子)

Greg Torode and David Lague

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動

ビジネス

必要なら利上げも、インフレは今年改善なく=ボウマン

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中