最新記事

日本外交

日本のイメージを世界で改善している「パブリック・ディプロマシー」とは

2019年5月10日(金)17時00分
桒原 響子(未来工学研究所研究員)*東洋経済オンラインからの転載

他方、日韓関係は、2015年末の慰安婦問題に係る日韓合意を受け、一時は改善するかのように見えたが、その後徴用工問題が浮上。これをめぐり、韓国大法院が相次いで日本の企業に対して賠償を命じる判決を下した。慰安婦問題でも、2016年末に釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置され、2015年の日韓合意を踏まえて設立された財団を韓国側が解散するといった事態になっている。

こうした中、日本政府は、アメリカや国際社会に対し、「反論」や「批判合戦」ではなく、いかに日本として「メッセージの適切な発信」をするかが、今後の課題となろう。

「シンゾー・アベ」の名は海外でも認知度高い

一方、安倍政権のPDにも、世界に負けない強みがある。それは、もともとの日本への信頼度や好感度の高さと、日本の伝統文化・ポップカルチャー・食といった文化だ。

具体的に1つずつ見ていこう。まずは、日本に対する信頼度や好感度向上という点では、安倍首相の貢献度は小さくない。「シンゾー・アベ」の名は、歴代首相と比較しても海外における認知度が高い。お馴染みの3本の矢については、欧米のメディアでも大きく取り上げられたし、「地球儀を俯瞰する外交」については、欧米やアジアなどにおいて、経済関係を含めて、力強くアピールしてきた。SNSを駆使した発信にも力を入れている。

これに2015年以降始めたPD戦略も相まって、日本の対外発信戦略は順調に進んでいるように見うけられる。PDの主戦場であるアメリカにおける対日信頼度は、2014年度から2年続けて最低を記録したが、それでも一般人に対しては73%という高水準を維持。しかも、2015年度以降の2年間で、対日信頼度(対一般人)は14%上昇しているほか、有機者間でも上昇傾向にあり、日本PDの一定の成果が出たといえる。

また、ASEAN地域からの対日信頼度は、他の国(アメリカやイギリス、フランスなど19カ国)より群を抜いて高い。外務省の世論調査によると、直近の2017年度は、日本が30%と最も高く、2位は中国(14%)、3位はアメリカ(13%)となっている。日本が信頼できるとした30%という値は、2015年度より8ポイント増加しており、他国に対する信頼度が低下傾向にあることと比較しても、伸び率は大きい。世論にみる日本のPDは一定の効果を発揮しているといえそうだ。

toyo-keizai_190510_02.png

(出所)外務省「海外における対日世論調査」をもとに筆者作成
(注)対象はASEAN10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)

文化についても、伝統文化に加え、食、マンガやアニメなどのポップカルチャー人気が、欧米やアジアで拡大している。外務省がPDの一環で開設し、ロンドン、ロサンゼルス、サンパウロに設置された日本の魅力を海外に伝える発信拠点「ジャパン・ハウス」も、来館者数も各都市当初目標を大きく上回るなど、順調な滑り出しを見せている。

もともと高い対日好感度や信頼度、そして日本文化への関心の高さを武器に、PDの新戦略を打ち出した安倍政権。信頼度やプレゼンスが向上しているという結果に鑑みれば、上手くいっているように見えるが、課題もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中