最新記事

イラン

米イラン対立エスカレート ホットライン不通が示す一触即発の危険性

2019年5月30日(木)11時00分

米国、イラン両国の外交トップによるおおっぴらないがみ合いは、何かのきっかけで、直接交渉するルートがないために軍事衝突に発展してしまう可能性が高まっているとの懸念を深めることになるとの声が上がっている。写真は18日、米強襲揚陸艦キアサージに戻るAV-88ハリアー機。米海軍提供(2019年 ロイター U.S. Navy/Mass Communication Specialist 2nd Class Megan Anuci/Handout via REUTERS)

2016年に米海軍の小型船がイラン海域に入り込み、米兵10人が拘束された際、米国のケリー国務長官(当時)とイランのザリフ外相はものの数分で電話会談を始め、数時間後には兵士ら解放の手はずが整っていた。

いま同じようなことが起きたら、これほど速く解決できるだろうか。

ロイターがザリフ外相に聞いてみると、答えは「ノー」だった。「そんな風にいくわけがないだろう」

国連のイラン代表団によると、ザリフ外相と米国のポンペオ国務長官が直接言葉を交わしたことは一度もない。その代わり、ツイッターやメディアを通してお互いを中傷する、という手段でコミュニケーションをとる傾向にある。

ザリフ外相は、「ポンペオはイランについて話すときには必ずわたしを侮辱する。彼からの電話を取る義理はない」と語った。

両国の外交トップのおおっぴらないがみ合いは、何か誤解や小さい事故があった場合に、直接交渉するルートがないために軍事衝突に発展してしまう可能性が高まっているとの懸念を一層深める要素だと、米政府の元幹部らや外交官、議員や外交政策専門家は指摘する。

トランプ政権は今月、イランが米軍などへの攻撃準備を進めている可能性を示唆する情報があるとして、中東地域に空母打撃群と爆撃部隊、パトリオットミサイルを派遣した。

メーン州代表のアンガス・キング上院議員(無所属)はロイターに対し、「偶発的な衝突の危険性が日々高まっているようにみえる」と述べ、政府はイランと直接対話をするべきとの見解を示した。

欧州のベテラン外交官は、米国とイランのトップレベルの閣僚らが「会話をする仲」であることは、たった一つの出来事が危機的状況となることを防ぐために不可欠だと語る。

「無自覚に誰も望んでいない状況にならないよう、なんらかのチャンネルがまだ生きていることを願っている。いま飛び交っている挑発は憂慮すべきだ」

米国務省のモーガン・オータガス報道官は、2016年と似たような出来事があったらどうするのか、という質問には応じなかったが、「話すべき時が来たら、そのようにする手段をわれわれは持っていると確信している」とだけ述べた。

同報道官は、イランに対する「最大限の圧力」の目的は、交渉のテーブルにイランの指導者らを戻すことだと語った。

「イランが態度を普通の国のように改めれば、こちらも話をする準備はある」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米英欧など18カ国、ハマスに人質解放要求 ハマスは

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中