最新記事

統計

主催者200万人・警察33万8千人と食い違う香港デモ参加者数 正しいのはどちら?

2019年6月25日(火)16時45分

さまざまな推計値

警察側とデモ主催者側の推計値は、食い違うのが普通だ。近年では、その差が大きく開くようになっている。

警察:33万8000人

警察の広報担当者は、9日は最大で24万人、16日は最大33万8000人が参加したと推計していると語った。これは、一日中続いたデモ活動の、ある一瞬に現場にいた人の数字だという。

警察側は、推計方法を明らかにしていないが、数か所での計測に基づいているとしている。

「警察が推計する参加者の数は、十分な警察官を配置するための大まかな数字でしかない」と警察当局者はロイターに語った。

主催者:200万人

16日のデモを組織した民主団体の1つ、民間人権陣線は、8時間のデモ活動に200万人近くが参加したと推計している。警察よりもずっと多いが、これは抗議活動が続いた時間をすべて考慮した数字だ。

「高い場所に人を配置して、1人ずつ人数を数えている。これが最も手間のかかる、しかし科学的な推計だと思う」と、同団体の代表者は記者会見で述べた。

1秒当たり10人の速度で数えた場合でも1時間で数えられるのは最大3600人。それも同じ人を2度数えない必要がある。この代表者は、何人を配置したのか明かさなかったが、このペースで200万人を数えるには、552人時分の働きが必要になる。

香港大の葉兆輝教授は、この団体の推計値を疑問視している。

「200万人もの人をどうやって1人ずつ数えるのか。人間には無理ではないか」と、同教授は指摘する。

独立推計

前出のHKUPOPでは、警察側と主催者側のそれぞれの推計値を追跡し、中国に香港が返還された記念日である7月1日の抗議活動などで独自の推計値を出している。警察と主催者の推計値には大きな開きがあるのが常だが、2011─14年は特に差が大きかった。

このプログラムを率いる鐘庭耀氏は、推計値が絶望的に政治化されていると話す。

「推計値は、科学的でなくなってきている。一方は誇張ばかり、もう一方は圧縮するばかりで、双方とも現実からかけ離れてきている」

HKUPOPでは、一般的に行進の流れを計測し、いつどこでデモに参加したかについての参加者取材を踏まえてこれを調整して推計値を出している。同プログラムは、9、16日のデモに計測チームを派遣しなかった。

だが葉教授は、入手できる材料から、参加者数は50─80万人だったと推計する。

「市民の力」

警察側とデモ主催者側が、推計数で合意に達することはないだろう。だが葉教授は、数字を巡って争うことで、双方とも大事な点を見落としていると指摘する。

「実際の人数は、本当はそれほど重要ではない。市民が大挙して参加しているかどうかを感じられるかが大事だ。香港市民には非常に大きな力があり、それを誇りに思っている」

出典:マンチェスター・メトロポリタン大キース・スティル教授、香港大民意研究計画(HKUPOP)、グーグル・アース、香港警察、民間人権陣線、ロイター報道 

(Simon Scarr記者, Manas Sharma記者, Marco Hernandez記者、 Vimvam Tong記者、翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

FRB、物価圧力緩和まで金利据え置きを=ジェファー

ビジネス

米消費者のインフレ期待、1年先と5年先で上昇=NY

ビジネス

EU資本市場統合、一部加盟国「協力して前進」も=欧

ビジネス

ゲームストップ株2倍超に、ミーム株火付け役が3年ぶ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子高齢化、死ぬまで働く中国農村の高齢者たち

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 6

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 7

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    あの伝説も、その語源も...事実疑わしき知識を得意げ…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中