最新記事

中国

中国「米中貿易」徹底抗戦と切り札は?――白書の記者会見から

2019年6月5日(水)13時50分
遠藤誉(筑波大学名誉教授、理学博士)

Q:(中国日報の質問の関連部分)「信頼できない企業」リストはいつ頃発表されるのでしょうか?

A:近い内に公布するつもりだ。

(筆者注:この「信頼できない企業」リストに、もしAppleを入れれば、どうなるだろうか?中国はいつかはApple外しという強烈なカードを切るのではないかと、ずっと思ってきた。今年4月17日付のコラム<Huaweiが5G半導体をAppleにだけ外販?――Huaweiの逆襲>で見たように、中国にとって、Appleほど大きな切り札はない。HuaweiがAppleに、傘下のハイシリコンの半導体を売る可能性をほのめかしただけで、中国政府は慌ててHuaweiを中国政府側に引き寄せたほどだ。そのことは翌日のコラム<5G界、一夜にして一変! 「トランプ勝利、Huawei片思い」に終わるのか>で無力感を吐露した。Huaweiの任正非CEO自身はAppleを褒め、Huaweiを応援するためにApple製品不買運動などしてくれるなと言ってはいるが、しかし中国政府にとっては違うはずだ。アメリカが根拠を示さずにHuaweiは危険だとして排除運動に出ているように、もし中国が何らかの「もっともらしい」理由を付けてApple外しをしたら、アメリカが受ける打撃は普通ではないだろう。何と言ってもApple製品は中国大陸で製造しているのだし、その購買者の20%は中国大陸の若者なのだから。米中貿易戦争の分岐点は、中国がApple製品を締め出すか否かにかかっていると言っても過言ではないほど、Appleの存在は大きい。拙著『「中国製造2025」の衝撃』に書いたように、AppleのCEOは今のところ習近平の母校である清華大学の経済管理学院顧問委員会委員だが、しかし、QualcommのCEOだって昨年までは顧問委員会の委員だった。何が起きるかは分からない。最後の切り札は、Apple外しかもしれない。このリストにAppleを入れた瞬間、米中貿易戦争は「米中ハイテク戦争」という真の姿を全面に出してくるだろう。)

G20での米中首脳会談はあるか?

Q:(ロイター社)今月日本で開催されるG20で習近平国家主席はトランプ大統領と会談しますか?

A:これに関しては、私は如何なる情報も持っていません。

以上、白書発布会記者会見のQ&Aから見えた一考察を試みた。

追記:中国は2010年の尖閣諸島問題発生の後、日本に「レアアース」カードを切ったが、失敗に終わっている。対中依存度を低めたのと、WTOが協定違反とされたことなどが主たる理由だ。今回はアメリカの高関税もWTO違反だと中国は言っているし、アメリカのハイテクや軍事産業へのレアメタル対中依存度は日本と比べものにならないほど大きい。しかし何と言っても日本は近年、小笠原諸島・南鳥島の沖合5500メートルの海底にレアメタルが埋蔵していることを確認している。早期開発と実用化に期待したい。

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ワールド

再送-バイデン政権の対中関税引き上げ不十分、拡大す

ワールド

ジョージア議会、「スパイ法案」採択 大統領拒否権も

ビジネス

米ホーム・デポ、売上高が予想以上に減少 高額商品が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中