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ロシア汚職追及記者、異例の解放はプーチン体制終焉の始まり

Journalist’s Release Reveals Cracks in the Putin System

2019年6月12日(水)18時00分
エイミー・マッキノン

捜査は打ち切りで自宅軟禁も解けた。愛犬や支援者らと祝うジャーナリストのゴルノフ(6月11日) Shamil Zhumatov- REUTERS

<体制批判で知られる記者を逮捕したロシア当局が、メディア界の猛反発を受け数日で捜査を打ち切った。これは何を意味するのか>

ロシアの内務省は6月11日、調査報道で有名なジャーナリストのイワン・ゴルノフに対する捜査の打ち切りと自宅軟禁の解除を発表。警察幹部2人が更迭されたことを明らかにした。ロシア当局がこのように態度を180度翻すのはきわめて異例だ。

普段は強気のウラジーミル・プーチン大統領のドミトリー・ペスコフ報道官も、「間違いは常にあるものだ」と、珍しく当局のミスを認めた。

6月6日に麻薬密売容疑で逮捕したゴルノフを5日後に釈放するという当局の驚くべき決断は、国内のジャーナリストや市民、そして国際社会からの抗議を受けてのことであり、ロシア政府がこのところの支持率低下に神経質になっていることを示している。

ゴルノフの逮捕に対する反発で政権が倒れる可能性はないだろう。だが今回の顛末は2024年に予定されているプーチンの退任を前に、国民が抗議の声を上げ、プーチン後の体制を問い直す気運が盛り上がり、19年の長きに渡るプーチンの独裁的な政治体制にほころびが見えてきた現状を浮き彫りにした。

「現在の制度が国内、国外からの圧力の下できしみ、うめきを上げている兆候だと私は思う」と、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジのスマーク・ガレオッティ名誉教授(スラブ・東欧研究)は言う。

捜査対象から脅されていた

プーチン大統領は厳重に管理されたトップダウンの統治スタイルで知られているが、よく言われるような全能の権力者ではない。ダニエル・モーガン国家安全保障大学院(ワシントン)のユバル・ウェーバー准教授によれば 「水面下ではたくさんのことが起こっている」。物事がうまくいかないときは、プーチンが介入し、解決せざるをえない。

プーチンは、ジャーナリストや野党政治家、活動家に日常的に嫌がらせし、投獄し、ときには殺害さえするシステムを創り上げ、仕切ってきた。

だがゴルノフの逮捕は、 彼の調査報道で利権を脅かされると考えた共産党政治局の中堅幹部の仕業らしい。ゴルノフの逮捕が引き起こした抗議があまりにも大規模だったため、誰が命じたにせよ、政治的なリスクが大きくなりすぎ、バランスが崩れた。そこでトップからの命令で異例の決定を余儀なくさせられたのだと、ウェーバーは言う。

ゴルノフが所属する独立系ニュースサイト「メドゥーザ」のイワン・コルパコフ編集長は、オンラインで声明を発表。ゴルノフが13カ月間取り組んでいた調査の対象から脅されていたことを明らかにした。捜査対象の氏名は発表しなかったが、ゴルノフは拘束される前に編集者に記事の草稿を提出していたという。

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