最新記事

中東

トランプ政権の中東和平、第1弾が開始 戦争の「傷跡」が示す遠い道のり

2019年6月26日(水)16時55分

長年に渡るイスラエルとパレスチナの問題解決に向けた新たな取り組みのため、今週バーレーンに各国の代表が集合する。写真はエルサレムの「弾薬の丘」に残された塹壕。3月撮影(2019年 ロイター/Ronen Zvulun)

長年に渡るイスラエルとパレスチナの問題解決に向けた新たな取り組みのため、今週バーレーンに各国の代表が集合する。中東和平が、再び注目を集めている。

バーレーンで25─26日に開催される、パレスチナの経済支援を巡る米国主導の国際会合では、多額の資金拠出の約束が行われるだろう。遅れていたトランプ米政権の中東和平案の第一弾が、ようやく動き出す。

だが、イスラエルやパレスチナ自治区、ゴラン高原に残された過去の戦争の傷跡を見れば、その取り組みの困難さが分かる。

古代の遺跡や中世の城跡は、レバント地方の人々の対立が、何も新しいものではないことを教えてくれる。

英国統治が終わり、イスラエルが建国された1948年以降、侵略や戦争、和平、条約、蜂起、封鎖、検問、そして内戦が、人々の移動や住む場所の境界を動かしてきた。

地上には、その地に去来した人々の痕跡が残されている。

イスラエルが占拠するゴラン高原の西端を流れる白い川には、数十年前のシリアの戦車が、腹を上にした状態でさび付いた姿をさらしている。

この場所は、1949年から1967年の第3次中東戦争(6日間戦争)までの間、シリアとイスラエルの軍を隔てた非武装地帯だった。同戦争の結果、イスラエルがシリアからゴラン高原のほとんどの地域を奪い、その後併合した。

今日では、イスラエル人の観光客が白い川の水の流れに足を浸しながら、戦車の金属のボディーに落書きを刻んでいる。

「シュールな光景だ。まるで宇宙から落ちてきたみたいだ」と、友人と共に訪れたダニエル・アロニムさん(54)は驚く。

確かに、落ちてきたものではあるが、宇宙からではない。

塹壕と要塞

近くのキブツダン出身のアミラム・エフラティさんは、1967年6月に起きた第3次中東戦争に従軍し、シリアが占拠していたゴラン高原からイスラエルに向けて進軍してきたシリアの戦車6台と対峙した。戦車のうち1台が、乾燥した小麦の畑に砲撃した。

「炎が戦車のキャタピラやチェーンに燃え移り、奴らは後退を始めた」と、82歳になったエフラティさんは振り返る。「そのうち1台が端に寄り過ぎ、地盤がもろかったため、転落した。今もその場所にある」

それから52年が経ったが、エフラティさんは和平交渉が成功するとは思っていない。

「(和平は)信じない。中東では無理だ」

ゴラン高原には、1967年と73年にイスラエルとシリアの間で起きた戦争の遺物が至る所に残されている。地雷原や、塹壕、そして打ち捨てられた武器などだ。かつてシリア側が使っていた建物には、アラビア語で、「シリア軍がここを通過した」と落書きされていた。

通過したのはシリア軍だけではない。

1917年にやって来た英軍は、英国統治が終わった48年に去った。英軍が去るのと同時に、周辺のアラブ諸国が侵攻し、ヨルダン軍が西岸と東イスラエルを占拠した。その1年後に休戦協定が結ばれ、グリーンラインと呼ばれる国境線が確定した。これは、イスラエルが支配する西エルサレムと、ヨルダンが支配する東イスラエルとを、イスラエルが東イスラエルを奪った1967年の戦争までの約20年間隔てていた。

現在エルサレム市街地には、グリーンラインがそこにあったことを示すものはほとんどない。

だがエルサレムにある「弾薬の丘」には、かつてヨルダン軍が使った塹壕や要塞が残されている。この地はもともと、英軍が築いたものだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

訂正-ポーランドのトゥスク首相脅迫か、Xに投稿 当

ビジネス

午前の日経平均は反落、前日の反動や米株安で

ビジネス

中国新築住宅価格、4月は前月比-0.6% 9年超ぶ

ワールド

北朝鮮技術者が身元偽り米企業でリモート勤務、支援の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中