最新記事

難民

終わりなきロヒンギャの悲劇

No Way Out

2019年6月27日(木)17時40分
増保千尋(ジャーナリスト)

magw190627_Rohingya02.jpg

島内で石を運ぶ作業員 REUTERS

だが満潮時には高波に襲われ、毎年サイクロンの被害を受けている島へ難民を移送することを国際社会は問題視している。国連特別報告者の李亮喜(イ・ヤンヒ)は今年1月に島を訪ねた後、居住可能な島なのか疑問だとした上で、「難民の同意のない無計画な移住は、新たな危機を呼ぶ可能性がある」と指摘。各国の人権団体やメディアも「監獄島への強制移住」と痛烈に非難した。

受け入れ国に経済支援を

筆者が18年末にバシャンチャール島を訪ねた際は雨が降っていて、普段から波の高いベンガル湾がさらに荒れていた。この辺りの海域には海賊が出現することもあり、地元住民も島には行きたがらない。スピードボートをチャーターし、混濁した海原を進むこと1時間で島付近に到着。建設現場で働く労働者以外は上陸禁止だとバングラデシュ海軍に止められたため、島内に足を踏み入れることはできなかったが、島周辺の様子は船から観察できた。

バシャンチャールは島というよりは中州のように海抜が低く、海が荒れたらひとたまりもなく水没しそうだ。海岸沿いには何台もの重機が並び、多くの労働者の姿が見えた。ロイター通信などによれば、中国のシノハイドロ社と英HRウォーリングフォード社が防波堤の建設を請け負っており、建設費用の約2億8000万ドルは全てバングラデシュ政府が拠出しているという。

住民によれば、この辺りの島々は外界から隔絶しているため医療・教育施設が乏しく、荒天時には文字どおり孤島になるという。そんな場所に難民を閉じ込めれば、バングラデシュ社会と共生することもミャンマーに帰ることも難しくなるだろう。

バングラデシュとミャンマーは、ナフ川という自然の国境に隔てられている。帰還が実行されれば、ロヒンギャはバングラデシュ側の国境付近に設けられた一時滞在所にある船着き場から、船でナフ川を越えて故郷の村に戻る。帰還計画が頓挫しているため施設は無人のまま放置されているが、この施設から晴れた日にナフ川を望むと、対岸にはミャンマーのロヒンギャの村が見える。近いところでは1キロほどしか離れていない。

ミャンマーのラカイン州とバングラデシュの物理的な交流が始まったのは、15世紀初め頃だと言われている。バングラデシュのチッタゴン大学で長年ロヒンギャを研究する人類学者ナシル・ウディンによれば、その後500年ほどの間、対岸に暮らす人々は船で川を越えて頻繁に行き来していたという。現在の国境線が確定したのは66年で、まだ50年ほどしかたっていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中東欧・中東などの成長予想引き下げ、欧州開銀「2つ

ビジネス

英バーバリー、通年で34%減益 第4四半期の中国売

ビジネス

ABNアムロ、第1四半期は予想上回る29%増益 高

ビジネス

三菱UFJFG、発行済み株式の0.68%・1000
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中