最新記事

金融

遠藤金融庁長官に逆風 「老後2000万円」報告書で行政に混乱

2019年7月2日(火)18時35分

7月2日、金融庁の遠藤俊英長官の続投が決まった。写真は都内で2015年11月撮影(2019年 ロイター/Thomas Peter)

金融庁の遠藤俊英長官の続投が決まった。老後に2000万円を蓄える必要があると試算した金融審議会報告書の受け取りを麻生太郎財務・金融担当相が拒否する異例の事態に、その後の同庁の行政が停滞。高齢社会における資産運用に関する政策対応が行き詰まっただけでなく、1期目から力を入れてきた地域金融機関の活性化策といった課題推進にも影を落としている。2期目は「逆風」下でのスタートを強いられる。

止まった事務手続き

「老後2000万円」問題の波紋が金融行政に広がり、各方面で停滞が目立つ展開となった。

東京証券取引所の市場区分の再編を議論していた専門会合は、6月14日の会合を延期。老後に向けた資産形成で「2000万円の蓄えが必要」と盛り込んだ報告書を取りまとめた金融審議会「市場ワーキング・グループ」の神田秀樹・学習院大学大学院法務研究科教授が、この専門会合の座長を兼任している。

金融機関による顧客本位の業務運営の方針が、顧客にどれだけ浸透しているかなどについて、今年1月から3月に実施した調査の最終報告も、6月10日の公表が急きょ見送られ、担当職員が表現の見直しを進めている。

行政方針にも余波

新しい金融行政方針の検討にも遅れが出ている。遠藤長官の続投を前提に、金融庁幹部は当初、7月から始まる新たな事務年度の行政方針について、6月末にも公表することを目指していた。だが、報告書問題への対応で公表できなかった。

金融行政方針は、事務年度(7月―翌年6月)ごとに示される。ただ、2017年は11月10日、18年は9月26日と、新事務年度が始まっても長期間公表されないことが多く、一部で早期の公表を求める声が出ていた。

たとえば、金融庁が委託したコンサルティング会社の調査(今年1月から3月に実施)では、地方銀行から行政方針の公表を早めてほしいとの要望が出ていた。

早期公表が可能になれば「モニタリングの回数や準備時間を確保することができ、密なコミュニケーションにつながる」と地銀は回答していた。

この調査の結果、「金融行政方針の公表タイミングを改めて検討し、可能な限り早期に各金融機関に伝わるようにすることが望ましい」との提言がまとめられ、水面下では、早期公表に向けた検討が始まっていた。

しかし、2000万円に言及した報告書を麻生金融相が受け取らないと表明。行政方針の検討作業にも影響が波及し、検討が事実上、ストップした。

受け取りを拒否された報告書が取り上げた高齢社会における金融サービスのあり方や、顧客本位の業務運営も行政方針の柱に据えるはずだったため、金融行政方針の公表タイミングは不透明なままとなっている。

問題となった高齢社会に関する報告書では、長寿化し、多様化するライフスタイルに合わせた金融機関のきめ細かなサービスの実現や、個人の安定的な資産形成の促進の必要性が強調されていた。

成年後見制度のもとでの資産形成について要検討事項としたほか、金融機関が非金融サービスと連携することの重要性も盛り込まれたが、2000万円の貯蓄が必要という一部の記述にばかり国民の関心が集まり、金融庁の問題意識とはかけ離れた展開になっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地

ビジネス

米国株から資金流出、過去2週間は22年末以来最大=

ビジネス

中国投資家、転換社債の購入拡大 割安感や転換権に注

ワールド

パキスタンで日本人乗った車に自爆攻撃、1人負傷 警
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中