最新記事

人種差別

「国へ帰れ」の次は「送り返せ」 エスカレートするトランプの人種差別とささやかな抵抗

Restaurant near Trump Rally Donates 100% of Proceeds to Help Immigrants

2019年7月19日(金)18時30分
シャンタル・ダシルバ

最近のトランプの選挙集会では、聴衆から不気味な「送り返せ」コールが沸き上がった(ノースカロライナ州グリーンビル、7月17日) Kevin Lamarque-REUTERS

<トランプのマイノリティー攻撃に支持者が呼応し「送り返せ」コールを始めた火曜の選挙集会は、現代では最も醜い人種差別の光景だった、と専門家は言う>

ドナルド・トランプ米大統領は7月17日、2020年大統領選に向けた選挙集会をノースカロライナ州で開催した。トランプが元ソマリア難民でイスラム教徒の民主党下院議員イルハン・オマルを攻撃すると、支持者たちは間髪を入れず「(彼女を)送り返せ」の大合唱となった。

トランプは、ほんの数日前にもオマルらに「(自分の)国に帰れ」とツイートして米下院の非難決議を食らったばかり。

トランプの人種差別発言に怖さを感じて行動を起こす市民もいる。集会が開催された同州グリーンビルのレストランオーナーは、当日の売り上げを移民支援のために全額寄付することを明らかにした。

レストラン「ザ・スカラリー」のオーナー、マシュー・スカリーは、トランプの集会当日、レストランの窓に「本日の売り上げは全額、メキシコ国境の移民危機の解決と米社会の多様化を推進する団体『アメリカ移民協議会』に寄付します」と張り紙をし、その写真をフェイスブックに投稿した。

ef1ce1d4426deae567d5ef1bfa2a990dc1710f63.jpg

マシュー・スカリー Facebook

「トランプの人種差別に黙っていられなくなった」と、スカリーは本誌の取材に語った。「社会に憎しみと分断をもたらしている......今こそ前向きなメッセージを広める時だと考えた」

直接のきっかけは、オマルを始めとする民主党の「進歩的」な女性下院議員4人に対し、トランプが「犯罪まみれの出身国に帰れ」とツイートしたこと。その時点では、まさかそれ以上の攻撃をするとは思っていなかったという。

<参考記事>トランプの「国に帰れ」発言に全米が人種差別反対コール

<参考記事>ムスリム女性議員の殺害を呼び掛けるようなヘイト投稿をしてもトランプのツイッターはなぜ止められないのか

人種差別に国内外から非難

17日の集会でトランプは、非白人の4人の下院議員を、あらためて「憎悪に満ちた過激派」と攻撃。とくに、4人のうち8歳のときにソマリアから難民としてアメリカに来たオマルを「悪意ある反ユダヤ主義的な発言を繰り返している」と批判すると、会場の支持者は「送り返せ、送り返せ(send her back, send her back)」の大合唱になった(トランプは今、あれは支持者が言ったことだと責任逃れをしている)

「送り返せ」の大合唱 The Guardian

トランプの攻撃のターゲットになっているソマリア難民出身のオマル下院議員 ABC News

米議会議員や世界各国の有識者が、この集会で繰り広げられたあからさまな人種差別を非難している。アメリカの作家で公民権活動家のショウン・キングは、「米現代政治史の中で最も酷い人種差別の1つ」とツイッターでコメントした。

レストランオーナーのスカリーは、集会で何が起こったかを知って「とても残念だ」と言った。「『国に帰れ』とか『送り返せ』とか、アメリカにとって本当に恥ずべきことで、悲しく、憤りを覚える」

3人の子どもの父親であるスカリーは、不法移民の子どもたちがメキシコ国境で拘束されことも気がかりだと言う。「国境の子供たちがどんなトラウマを受けるか......そして将来、その子供たちがトラウマを乗り越えて人生で成功できるか、それはとても困難なことだ」と、話した。

窓に張り出したメッセージの効果で、17日にはレストランに約500人の来客があり、5800ドル以上の売り上げがあった。スカリーは、その全額を移民支援団体「アメリカ移民協議会」に寄付する。

20190723issue_cover-200.jpg
※7月23日号(7月17日発売)は、「日本人が知るべきMMT」特集。世界が熱狂し、日本をモデルとする現代貨幣理論(MMT)。景気刺激のためどれだけ借金しても「通貨を発行できる国家は破綻しない」は本当か。世界経済の先行きが不安視されるなかで、景気を冷やしかねない消費増税を10月に控えた日本で今、注目の高まるMMTを徹底解説します。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

BYDが25年に欧州2カ所目の組立工場建設を計画 

ビジネス

F&LCが業績上方修正、純利益倍増 スシロー事業好

ワールド

サウジ皇太子、20―23日に公賓として来日=林官房

ワールド

トランプ氏と不倫疑惑の女性、捏造を否定 性的関係証
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 2

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽しく疲れをとる方法

  • 3

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 4

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 5

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食…

  • 10

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中