最新記事

欧州

EUトップ人事の舞台裏で欧州リーダーの実力を見せたマクロン

2019年7月9日(火)17時50分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

2日の11時から再開された首脳会議で、CDU所属の現職国防大臣で一時はメルケル氏の後継者といわれたフォンデアライエン氏案が急上昇し、合意に至った。

タバール編集長は、この一連の動きでマクロン大統領は2つの目的を達したという。すなわち2人の女性を政治と経済の2つの柱のトップにすえて革新をアピールしたこと。ついで、独仏関係の修復を証明したことである。また、7月3日の「レゼコー」紙はフランスは欧州中央銀行の総裁職を獲得し、「柔軟なマネー操作を維持するために通貨機構をフランス人の手に握ることができた」という。

マクロン大統領は改革を前面にだし、左右の既成政党をぶち壊した。欧州議会でもそれを行おうとしたが、成功しなかった、とタバール編集長はいう.

ただ、ドイツ政界の混乱を生むことはできた。

ドイツで大連立を組んでいるにもかかわらず相談もなしにティマーマンス氏の案が葬られたことで、社民党は相当に怒っている。CDUもウエーバー氏を見捨てたことに不満を持っておりメルケル首相の求心力も衰えた。

厳しい指摘はブーメラン効果

マクロン大統領は、あえて表舞台に立つことで、独仏がEUを引っ張るという筋書きはかわらないとしつつ、限界の見えてきたメルケル首相にかわろうした。だが、まだまだ座長をつとめるには力不足である。ティマーマン氏はマクロン大統領の意中の人だったが、ポーランドなど中東欧諸国を納得させることはできなかった。

マクロン大統領がウエーバー氏に言った経験不足と言うことは、議員の経験もなく1回大臣になっただけで大統領になったマクロン氏自身にも言える。またフランス国内での不人気の原因になっている議会軽視、エリート主義、謙虚さの欠如もある。

欧州連合が動いていることはまちがいない。EUに加盟して15年、中東欧諸国はドイツの影響から脱却して力をつけてきている。崩壊はしないが、さまざまな変化が起きていくだろう。そこで、マクロン氏はめだちたがりのトリックスターに終わるのか、主役になれるのか。

hirooka-prof-1.jpg[執筆者]
広岡裕児
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中