最新記事

日本外交

フィリピン平和構築支援、歓迎される日本と締め出される中国

Japan’s Peacebuilding Prowess

2019年7月2日(火)19時10分
ダリア・シマンガン(広島大学大学院国際協力研究科助教)、マーク・マナンタン(台北の東南アジア研究センター研究員)

ISIS掃討戦で破壊されたマラウィ(17年10月) ROMEO RANOCOーREUTERS

<ISIS掃討戦で破壊されたマラウィを救えるのは、日本型の平和主義か>

令和時代は日本の国際的立場を見直す機会の到来を告げている。その出発点はフィリピン南部ミンダナオ島のマラウィになるかもしれない。

積極的平和主義は冷戦後の日本外交の特徴だ。第二次大戦後の平和主義は非軍事的手段で平和を探求するきっかけを与えた。特にインフラ復興を主導して、平和構築の隙間分野を見いだした。自衛隊は他国の工科部隊に訓練と教育を提供し、緊急時対応を改善するのに貢献した。

16年、日本は自衛隊が危険な状況で働くNGO職員などに「駆けつけ警護」できる改正法を施行。紛争地に寄り添い、非軍事的な「人間の安全保障」に重点を置くようになった。

日本の役割はフィリピンで顕著だ。フィリピンに対する日本のODAは昨年だけで59億8000万ドル。世界各国からのフィリピンODAの41%を占める最大支援国として、政府軍とイスラム武装勢力の間で40年以上も武力紛争が続いた南部ミンダナオでの和平を支援してきた。

締め出された中国企業

ミンダナオ和平は自治区を設立することで合意したが、その法整備の交渉中の17年5月、政府軍とテロ組織ISIS(自称イスラム国)系武装組織が武力衝突。ドゥテルテ大統領がミンダナオ島全体に戒厳令を宣言するなか、マラウィ包囲戦は5カ月続き、多くの人命を奪い、36万人が避難民となった。

マラウィ復興はミンダナオ和平の最重要課題だ。復興停滞と避難民帰還の遅れは現地の不満を高め、テロを再燃させかねないが、フィリピン政府主導の復興は遅れている。地元住民は、計画段階で現地協議もなく、当局が都市計画による住宅などの解体撤去に同意を得なかったことを批判した。

17年10月のマラウィ奪還後、日本はすぐに平和構築支援を約束した。道路建設への20億円相当など4度の開発援助を実施し、日本の総拠出額は36億円に達する。日本の援助は国際協力機構(JICA)や避難民に対する雇用機会を提供する「貧困削減基金」を通して行われている。

欧米など他国政府も日本に続いてマラウィを支援しており、中国も約150万ドルを援助している。しかしこの支援金は、フィリピンで反中感情が高まるなか、快く思われていない。南シナ海での領有権問題、中国人労働者の流入、現地での中国人の不品行が対中不信を高めている。ドゥテルテもこれまでの親中姿勢の転換を示唆し始めたほどだ。

マラウィでフィリピン政府は当初、地元の要請を無視して中国主導の共同事業を選択。だが
文書偽造などの詐欺行為のせいで、中国企業2社が世界銀行によって締め出された末、共同事業は頓挫した。

それでも政府はマラウィ再建のために、別の中国企業「中国電力建設」を改めて指名した。だがいまだに復興計画は実現せず、マラウィ包囲戦の激戦地帯は一般人が足を踏み入れられない状態だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月以降の数回利下げ予想は妥当=エストニア

ワールド

男が焼身自殺か、トランプ氏公判のNY裁判所前

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中