最新記事

核合意

欧州も日本もアメリカのイラン制裁を支持している──米国務省が世界規模の印象操作

U.S. Claims to Have Global Support Against Iran Nuclear Deal, It Does Not

2019年7月17日(水)21時00分
トム・オコーナー

トランプとイラン敵視政策を共有するのは今のところイスラエルだけ Leah Millis- REUTERS

<米国務省の武器はツイッターとアラビア語によるプロパガンダ。イランの核合意違反に他の国々も怒っているように見せかけたが、孤立しているのはアメリカのほうだ>

イランに制裁を科し、孤立させるアメリカの政策は国際社会の支持を受けている、と米国務省は言うが、実際には、孤立しているのはアメリカのほうだ。イギリス、ドイツ、フランスなど2015年のイラン核合意締結国はもとより世界の多くの国々は、昨年一方的に核合意から離脱したアメリカを非難している。

イランは7月7日、核合意に違反してウランの濃縮度を上限の3.67%以上に引き上げると発表した。米国務省は15日にアラビア語のツイッターのアカウントを使い、「原子力の平和利用の必要性を超えたレベルまでウラン濃縮を進めるというイランの決定を国際社会は非難した。この措置によってイラン指導部は世界から孤立するだろう」と投稿した。

今回新しいのは、「国際的な支持」の証拠として中国、ドイツ、日本、イギリスなどの反応が添えられていたこと。たとえば中国については、「中国は核合意に違反するイランの決断を遺憾に思う」とある。15日に中国の耿爽(コン・ショアン)外務省報道官が記者会見で語った内容にもとづいているようだが、耿報道官はこのとき同時に核合意の「完全かつ効果的な実施」も主張している。国務省はそれを省略した。

アメリカを支持する国々はいかにイランを非難しているか、を示した「印象操作」地図


ほとんどの国は「アメリカ元凶」説

耿が実際に語ったことはこうだ。「私は、アメリカによる『最大の圧力』が最近の危機の根本原因であることを強調したいと思う。アメリカは合意から離脱しただけでなく、一方的な制裁を科し、影響力を行使して、イランと他の締結国に対する妨害行為を続けた」

その後イランの核開発問題について問われた耿は、アメリカは「誤った方向に向かうのをやめ、他の関係諸国の正当な権利と利益を尊重し、核合意の実施を妨害する行為を止めるべき」だと主張、さらに「この問題の政治的、外交的解決に向けて努力する」ことを求めた。

EU外務理事会は15日にイランの核合意破りについて協議を行ったが、もともとこの協議の目的は、イランとの貿易を試みるあらゆる国を脅かすアメリカの対イラン制裁への対応を話し合うことだった。EUはイランの合意違反を非難はしたが、それはまだ「後戻り可能」であり、核合意に基づく紛争解決手続きの発動を正当化するほど「重大な」ケースにはあたらないとみなした。

EUのフェデリカ・モゲリーニ外交安全保障上級代表は、イラン核合意の締約国は、「合意の締結以来数週間前まで核合意の規定を完全に順守していたイランに今後も順守を促すために」アメリカの制裁を回避してイランとの貿易を続ける仕組み作りを計画していることを明らかにした。

モゲリーニはアメリカをEUの「最良のパートナーであり同盟国」と呼びつつ、締結国が「再び制裁を科すというアメリカの決定の影響を緩和」し、「可能な限り、制裁による損害を補う」措置を検討する可能性があることを示唆した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豪カンタス航空、7月下旬から上海便運休 需要低迷で

ワールド

仏大統領、国内大手銀の他国売却容認、欧州の銀行セク

ワールド

米国務長官がキーウ訪問、ウクライナとの連帯示す

ビジネス

米JPモルガン、CEOと会長の兼任廃止求める株主提
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中