最新記事

環境, 特集プラスチック危機

先進国から東南アジアへの廃プラ押し付けは許さない

My Country Is Not A Dumping Ground

2019年7月25日(木)15時30分
ヨー・ビー・イン(マレーシア環境相)

プラごみも同条約の規制対象に含めるとする改正案が今年5月に採択されたが、発効は21年1月。それまではクリーンですぐにリサイクル可能なプラごみも、そうでないものが交じった汚染ごみも区別されない。

まだ国際的枠組みがなくても、汚染されたごみをマレーシアに輸出している国々はその適切な処理に道義的義務を負うべきだ。

例えばバーゼル条約によれば、輸出国は国内の廃棄物を輸出する前に相手国の承諾を得なければならない。私が目にした大量のプラスチックごみの受け入れにマレーシアが同意していないにもかかわらず、輸出国は何の責任も取らず、後始末をわれわれだけに押し付けている。

「国際リサイクル」は幻想

輸出国の明確な協力はまだ得られていないが、わが国は今後も相手国政府に働き掛けていく。意識は向上しており、バーゼル条約の精神を締約国が遵守する日が必ず来ると信じている。

中国のプラスチックごみ禁輸措置は、プラスチック再利用とプラスチックごみの国境を越えた移動をめぐる危機への取り組みが急務であることを世界に気付かせた。結局、ごみを分別するのと実際にリサイクルするのとでは大違いなのだ。

先進国ではごみを自国でリサイクルするより、地球の裏側にある途上国に輸出して「リサイクル」した気になったほうが、いまだに安上がりだ。リサイクルと環境保護というのは幻想にすぎない。廃棄物の大部分は捨てっ放しか違法に再利用されている。国際リサイクルが環境に優しい方法で行われるよう総合的に監視する必要がある。

さもないと米環境保護局(EPA)などからのリサイクル助成金は問題を悪化させるだけだろう。「国際リサイクル」とは名ばかりで、実際には最大規模のプラスチックごみ投棄だ。

環境に配慮して真面目にごみを分別している人々の努力も水の泡だ。せっかく分別したごみが違法再生処理工場で焼却されたり、海に投棄される。

世界の総人口は50年には97億に達する見込みだ。このまま生産、消費、「リサイクル」を続けたらどうなるか、考えるだけで恐ろしい。プラごみのリサイクル率は世界全体で10%未満。適切な分別基準も未分別の汚染されたプラごみをリサイクルする技術もない国が多いのだ。

この問題に取り組むには国際協力が必要だ。プラごみの輸出入を監視・管理する枠組みを作り、世界全体のリサイクル率を向上させなければならない。石油系の使い捨てプラスチック包装を環境に優しい材質に変える必要もある。世界が力を合わせれば、必ず危機を乗り越え、グリーン産業の新たな成長のチャンスも生み出せるはずだ。

<本誌2019年7月30日号掲載>

20190730issue_cover200.jpg
※7月30日号(7月23日発売)は、「ファクトチェック文在寅」特集。日本が大嫌い? 学生運動上がりの頭でっかち? 日本に強硬な韓国世論が頼り? 日本と対峙して韓国経済を窮地に追い込むリベラル派大統領の知られざる経歴と思考回路に迫ります。


202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国4月輸出は13.8%増、7カ月連続プラス 半導

ビジネス

午前の日経平均は反落、米株安を嫌気 個別物色は活発

ビジネス

中国新疆から撤退を、米労働省高官が企業に呼びかけ 

ビジネス

米8紙、オープンAIとマイクロソフト提訴 著作権侵
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 6

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 7

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中