最新記事

米中関係

米中対決など大半のアメリカ国民は望んでいない

THE US NEEDS TO TALK ABOUT CHINA

2019年7月31日(水)18時00分
ミンシン・ペイ(米クレアモント・マッケンナ大学教授、本誌コラムニスト)

トランプ政権の対決路線は米中の経済冷戦を引き起こし、軍事衝突の不安も生み出している LEN11/ISTOCKPHOTO

<アメリカ人の経済的利害はそっちのけ――いま必要なのは対中政策をもっと議論することだ>

トランプ米政権が踏み切った外交政策の転換の中で、最も重大なのが対中政策の変更だ。新政権の対決路線は米中の経済冷戦を引き起こし、南シナ海や台湾海峡を舞台にした軍事衝突の不安も生み出している。

米中関係を急激に冷え込ませた最大の要因は、地政学上の問題だ。トランプ大統領が仕掛けた「貿易戦争」も、その文脈で考える必要がある。確かに、アメリカの対中関税は長期的に中国の経済力をそぐ効果があるが、アメリカの行動の根底にあるのは、戦略上のライバルを弱体化させたいという動機だ。

経済面だけで言えば、貿易戦争は米中の経済的な関係を壊し、アメリカ経済に深刻なダメージを及ぼす可能性が高い。それを懸念した約100国専門家や元当局者は先頃、大統領宛ての公開書簡を発表し、中国を敵扱いすべきでないと訴えた。

国民もおおむね同じ意見らしい。アメリカで中国への反感が広がっていることを否定するつもりはない。ピュー・リサーチセンターの昨年の世論調査によると、中国に好感を持つ人は38%だったのに対し、反感を持つ人は47%に上っている。しかし、中国の軍事力を懸念材料と考える人は29%にすぎない。その一方で、中国の経済力を恐れる人は58%に達した。

大半のアメリカ人は、対中関係では地政学的な対決よりも国民の生活を守ることが大切だと考えているのだ。ところが、トランプ政権は、国民の生活を犠牲にして地政学的対決に突き進んでいるように見える。

トランプは問いに答えよ

政府の行動と国民の意識が乖離している背景には、オープンな議論なしに対中政策が変更されたという事情がある。いま必要なのは、対中政策についてもっと議論することだ。

貿易戦争自体はニュースで大きく取り上げられてきたが、多くの国民は、対中政策がどのくらい大きく変更されたかを知らない。民主主義国である以上、強力な地政学上の敵対国と長期にわたり対立を続けようと思えば、政府は国民に情報を提供し、支持を得る必要がある。

実のある議論をするためには、トランプ政権がいくつかの問いに答えなくてはならない。まず、対中政策の究極的な目標は何か。特定の政策や行動を改めさせることなのか、それとも中国を経済的もしくは軍事的に封じ込めることなのか。あるいは、体制変革まで目指すのか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ海上搬送物資、国連が新たな輸送ルート 持ち去り

ワールド

中国、今後もイランと関係強化 王毅外相が大統領死去

ビジネス

機械受注1─3月は前期比4.4%増、先行きは減少見

ビジネス

米メーシーズ、通期利益見通し上方修正 新CEOの計
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中