最新記事

中国

変装香港デモ隊が暴力を煽る――テロ指定をしたい北京

2019年8月16日(金)09時45分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

香港返還に際してトウ小平がイギリスのサッチャー首相と交渉していた時、「中国人民解放軍に関してはどうするか」という話になった。

そのときトウ小平は火の玉のような勢いで叫んだ。

「軍隊なくして何の領土か!軍隊がいてこその国家だ!」として、「一国二制度」の「一国」を強調した。こうして1993年から香港に駐留する中国人民解放軍部隊の編成が開始され、1996年1月28日に編成を完成させて深センに配備した。そして同年12月30日に「香港駐軍法」が制定され、1997年7月1日零時に香港への進駐を完了させている。

2019年7月24日、中国国防部の呉謙・報道官は記者会見で、「香港政府の要請があれば現地の中国人民解放軍が出動することが可能だ」と強調した。中央テレビ局CCTVをはじめ中国政府系メディアは、7月21日に香港のデモ隊の一部が香港にある中華人民共和国の国章を汚すなどしたことについて「これはテロ行為だ!」と激しく非難してきたが、これに関して国防部の呉謙氏は、「必要に応じて軍隊を使う用意がある」と示唆した。

一方、冒頭で述べた楊光報道官の記者会見が行われた8月12日、CCTVなど中国の政府系メディアは同じタイミングで人民武装警察部隊が深センに移動する様子を撮影した動画を公開した。人民日報は、人民武装警察部隊の任務について、「反乱、暴動、深刻な暴力事件および違法な事件、テロ攻撃およびその他、社会の安全を脅かす事態に対処する」と具体的に説明している。

なお、人民武装警察部隊は2018年1月1日零時を以て、中央軍事委員会の直轄となっている軍隊である。

何もわざわざ武装警察がテロ防止の予行演習などをしなくとも、そもそも香港に中国人民解放軍がいる。いざというときには駐香港の中国人民解放軍がいるので、武装警察の予行演習はあくまでも威嚇が目的だ。

以上より、次のようなことが推断される。

――中国の中央政府(北京)は、何としても香港のデモを鎮圧したいが、国際社会の目があるため、なかなか軍を出動させることができないで焦っている。今年は建国70周年記念。10月1日以前に解決しなければならない。そこで、デモが「テロ行為」であることが証明されれば軍の出動が許されると考えて、「テロの定義」に当てはまるように、香港警察あるいは政府や軍関係者などがデモ参加者に変装して、デモ行為の過激化を目論んでいる。

香港の若者たちが、どうかこの策謀にはまらないよう、願うばかりだ。

endo2025.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中