最新記事

サメ

深海のサメを蛍光緑に光らせる新たな分子が発見される

2019年8月21日(水)18時30分
松岡由希子

深海で生物蛍光するサメ  David Gruber-ISCIENCE

<米ニューヨーク市立大学の研究チームは、このほど、生物蛍光をもたらす新たな分子を発見した......>

深海には、青色光しか届かず、その他の波長の光は、到達するまでに海水に遮られてしまう。このような環境下で生息する深海生物では、青色光を吸収して別の色の光を放出する「生物蛍光」の現象がみられる。

米ニューヨーク市立大学(CUNY)のデビッド・グルーバー教授らの研究チームが2014年1月に発表した研究論文によると、トラザメ科のアメリカナヌカザメやクサリトラザメなど、180種以上の深海生物において生物蛍光が確認されている。

「生物発光」と異なる、「生物蛍光」

生物が光を生成して放射する「生物発光」と異なり、生物蛍光は、外部光源を必要とするのが特徴だ。生物蛍光では、吸収した青色光を別の色の光に変換する際、緑色蛍光タンパク質(GFP)や脂肪酸結合タンパク質(FABP)が用いられていると考えられてきたが、グルーバー教授らの研究チームは、このほど、生物蛍光をもたらす新たな分子を発見した。一連の研究成果は、2019年8月8日、オープンアクセス誌「アイサイエンス」で公開されている。

研究チームでは、アメリカナヌカザメとクサリトラザメに注目し、生物発光のメカニズムについて詳細な研究を行った。これらのサメの表皮は明暗2色にわかれており、それぞれから化学物質を抽出したところ、明色の部分のみに存在する蛍光分子を発見したという。

この蛍光分子は、臭素化トリプトファン-キヌレニン低分子代謝産物で、脊椎動物の中枢神経系や免疫系に関与する物質としても知られている。深海で生息するアメリカナヌカザメとクサリトラザメにおいては、この分子が、表皮を蛍光に光らせる役割も担っているというわけだ。なお、2016年4月に発表された研究論文により、アメリカナヌカザメやクサリトラザメの生物蛍光は、ヒトの目には見えず、サメの目でのみ見えることもわかっている。

微生物感染を防止する働きもある

また、この分子には、微生物感染を防止する働きもあるとみられている。いずれのサメも、微生物が多い海底の堆積物の隙間に生息していることから、研究チームでは、この分子がサメを清潔に保つ働きを担っているのではないかとみている。

グルーバー教授は、この研究成果について「低分子代謝産物をベースとする、海洋生物の新たな生物蛍光の形態を示すものだ」と評価。今後、海洋生物の生物蛍光や生物発光について幅広く研究をすすめることで、新たな画像技術の発展にもつながるのではないかと期待を寄せている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

「ECB利下げ開始確実」とポルトガル中銀総裁、6月

ビジネス

ECBは利下げ急がず、6月以降は慎重に=ラトビア中

ビジネス

英中銀、利下げ待つべき 物価圧力の緩和確認まで=グ

ビジネス

米新規失業保険申請、1万件減の22.2万件 労働市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中