最新記事

米イラン関係

米軍がイラン旅客機を撃ち落とした1988年の夏

Long Memories in Tehran

2019年8月22日(木)15時50分
トム・オコナー

magw190822_IranAir3.jpg

テヘランの旧米大使館を囲む壁に描かれた反米プロパガンダ ERIC LAFFORGUE-GAMMA-RAPHO/GETTY IMAGES


イラン・イラク戦争時、アメリカ、ソ連、フランス、イギリスといった大国はことごとく、サダム・フセイン大統領率いるイラクが隣国のイランに侵攻することを支持した。撃墜事故当時は、1979年にイラン革命で王政が倒されてイスラム国家が樹立されてからまだ10年足らず。イランには「資金などの資源も乏しく、経験もほとんどなかった」と、アクバリは言う。

「イランの報復能力はアメリカには到底かなわなかった」とアクバリは当時を振り返る。「それは今も同じだろうが、イランは非対称の報復能力を増強して攻撃の代償を高くしようと躍起だ。イラン当局者は現在、自国の防衛能力と独立性と領土保全の必要性を力説している」

最悪の事態は回避したが

「そうした考え方はイラン航空655便撃墜といった事件にも起因している。イランの軍幹部も政治家も、あんな状況には二度と陥りたくないのだ」と、アクバリは言う。

その後もイランを孤立させるアメリカ主導の取り組みは続き、イランは中東で盟友を探さざるを得ない。1980年代のイラン・イラク戦争でフセインを支持したアメリカが、2003年に(イラクが大量破壊兵器を保持しているという誤った情報を信じて)イラクに侵攻。フセイン政権は崩壊、イランはイラクとの関係を強化した。

米国防総省は今年4月、イラク戦争中の親イラン勢力の攻撃で米軍要員600人以上が死亡と発表。ドナルド・トランプ大統領自身も6月下旬、イランが簡易爆弾などで「アメリカ人2000人を殺害した」とツイートしたが、それを裏付ける証拠は示さなかった。アメリカはシリアでもイランと親イランの民兵組織が米軍にとって脅威となったと主張する。シリアは1980年代のイラン・イラク戦争時にアラブで唯一イランを支持し、現在も非常に重要なパートナーだ。

敵視し合うアメリカとイランの貴重な雪解けが、2015年のオバマ政権とロウハニ政権による核合意だった。イランは数十億ドル規模の経済制裁緩和と引き換えに核開発の大幅な制限に同意。両国の強硬派は懐疑的だったが、国際社会はおおむね歓迎。両国に加え、中国、フランス、ドイツ、イギリス、ロシアが核合意に署名した。

しかし昨年5月に、トランプは核合意を一方的に離脱。残る参加国は中東で緊張が高まるなか、合意救済に苦戦することになった。ヨーロッパはイランとの通商関係を正常化できず、イランは1年後の今年5月、履行義務の一部を放棄すると発表した。ただし合意の枠内でだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中