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香港でインドネシア人記者、警察の銃撃で失明 国内の大学生射殺は警官関与が濃厚

2019年10月3日(木)20時49分
大塚智彦(PanAsiaNews)

インドネシアの大学生2人射殺は警察関与?

一方、インドネシア国内でも9月26日に南東スラウェシ州クンダリにある州議会建物付近で、全国規模のデモに参加していた地元大学の学生2人が死亡した。19歳の大学生は頭部を撃たれ、21歳の学生は胸部を撃たれていた。

インドネシアでは、国会による汚職撲滅委員会(KPK)の権力を弱体化する法律が可決されたことや「報道・言論の自由」「個人のプライバシー」などを制限する内容の刑法改正案の審議に反対する抗議デモが、大学生を中心に連日行われており、そのデモのさなかに2人は殺害された。

当初警察は「警察官はゴム弾以外所持していない」と関与を全面否定していたが、ジョコ・ウィドド大統領による「徹底的な捜査」指示を受けて内部調査を行い、その結果10月3日に国家警察が「内部規定に反して警察官6人が当時、拳銃を現場に持ち込んでいた」として6人の警察官のイニシャルを発表した。6人が所持していた拳銃には実弾が装填されていたという。

6人は中堅幹部5人と上級幹部1人で、情報課と刑事事件捜査課に所属しており、いずれも「安全確保のために持ち込んだ」と警察の内部調査に答えているという。しかし銃の現場への持ち込みは認めたものの、大学生に対する発砲に関する供述内容について警察はこれまでのところ明らかにしていない。

地元警察や国家警察が事件直後に発表した「実弾射撃に関する完全な関与否定」から一転して容疑者として警察官6人の取り調べに至った背景には、全国規模のデモが続く中、ジョコ・ウィドド大統領が学生2人の死亡に哀悼の意を示すとともに捜査の徹底を強く指示したことが影響しているといえる。

これを受けてティト・カルナファン国家警察長官も内部調査を厳しく命令したことが6人の容疑者浮上に繋がってとみられている。

20日の大統領就任式控え沈静化狙う

インドネシアでは10月1日に新たな国会議員が召集され、20日にはジョコ・ウィドド大統領の2期目の大統領就任式が行われ、その前後には新内閣も組閣されるという重要な政治日程が控えている。

こうしたなか、全国規模で続く大学生を中心としたデモの激化とそれに伴う警察部隊との衝突が連日大きなニュースとなっている。

大学生2人の死亡も「過剰暴力を行使する警察批判」としてデモの拡大に影響を与えていることから、政府としても事実関係の解明を急ぐことで事件の余波拡大阻止と沈静化の狙いがあったことは確実とみられている。

一方では、デモ参加者が警察に殺害されたことが濃厚になったことによって、香港で起きたベビー記者の事件に関しても、ジョコ・ウィドド大統領が香港政庁あるいは香港警察に対して事実解明を求めるように働きかけることを求める国内世論の声が高まるものとみられる。


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大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

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