最新記事

北朝鮮情勢

「白馬にまたがる金正恩」写真に潜む目的と予告

2019年10月21日(月)16時45分
アンキット・パンダ

KCNA-REUTERS

<いつもの滑稽なプロパガンダと笑い飛ばすわけにはいかない>

雪景色の聖地、白頭山で白馬にまたがる金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長。北朝鮮の国営朝鮮中央通信が10月16日に公開した写真(左)を、いつもの滑稽なプロパガンダと笑い飛ばして終わりにするわけにはいかない。

この1年、2月にハノイで開かれた第2回米朝首脳会談が途中で頓挫した後は特に、北朝鮮の国営メディアは金の神格化に余念がない。現体制における最高指導者としての地位は揺るぎなく、国内向けのプロパガンダでは、彼の上に父・金正日(キム・ジョンイル)を、さらにその上に建国の父である祖父・金日成(キム・イルソン)を位置付けている。

馬や冬季の外套は、金日成の王道のスタイルだ。金正恩は父親以上に、自分と祖父を結び付けようと苦心してきた。

ただし、北朝鮮のプロパガンダには、装飾的な外面に潜む目的がある。今回の写真も、数カ月のうちに国内の戦略に変化があるという予告として受け止められている。

今年1月1日の新年の辞で金は、アメリカが制裁や圧力を続けるなら、「新しい道」を模索すると警告した。米朝外交が行き詰まり、金は新しい道へと国を率いるつもりなのか。白馬の写真の説明文には、「逆風」「苦難の戦い」といった言葉も並ぶ。制裁解除の可能性が遠のいた今、経済的にさらに厳しい苦難が待ち受けていると示唆するのか。

一方で、朝鮮中央通信によれば、同行した高官たちは金が「またしても世界を驚かせる」と確信したという。ICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験や核実験の予告という見方もあるが、むしろ衛星の打ち上げかもしれない。2016年2月に地球観測衛星・光明星4号を打ち上げて以来、宇宙開発は北朝鮮の自立的な科学技術力を誇示する重要な機会とされている。

しばらくの間、金は夜な夜な星を見上げるかもしれない。

©2019 From thediplomat.com

<本誌2019年10月29日号掲載>

【参考記事】台風の現場で労働者を殺した「金正恩命令」の矛盾点
【参考記事】「金正恩を倒せ!」落書き事件続発に北朝鮮が大慌て

20191029issue_cover200.jpg
※10月23日発売号は「躍進のラグビー」特集。世界が称賛した日本の大躍進が証明する、遅れてきた人気スポーツの歴史的転換点。グローバル化を迎えたラグビーの未来と課題、そして日本の快進撃の陰の立役者は――。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルのミサイルがイラン拠点直撃、空港で爆発音

ワールド

ロシア凍結資産、G7がウクライナ融資の担保に活用検

ビジネス

リスクオフ加速、日経1200円超安 イスラエルがイ

ワールド

トランプ氏口止め事件公判、陪審員12人選任 22日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 6

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中