最新記事

韓国

アメリカが韓国に「最後通牒」......日本との安保対立めぐり

2019年10月31日(木)16時15分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

文在寅大統領は日本を牽制するつもりでGSOMIA破棄を宣言したが…… Alain Jocard/Pool/REUTERS

デビッド・スティルウェル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は26日、都内の在日米国大使館でメディアの取材に応じ、韓国が日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を宣言したことを巡り、文在寅政権に決定の撤回を求める考えを示した。

スティルウェル氏は同時に、「日韓双方に2国間の摩擦解消に向けて働きかける」と述べており、韓国だけを圧迫したわけではない。しかし、GSOMIAは11月22日いっぱいで失効する。こうしたタイムリミットがあるだけに、韓国メディアの受け止め方は深刻だ。

米「韓国に致命的な結果」

韓国紙・東亜日報はスティルウェル氏が11月5~7日に訪韓予定であることについて、「韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の満了時限を2週間前にしてGSOMIAの延長のために『最後の通牒』の意味合いで訪問するものだ」と伝えた。

スティルウェル氏に先立ち、米国防省のシュライバー次官補(インド・太平洋安全保障担当)も今月25日、東京で開催された国際会議で「韓国はGSOMIAを延長しないとした決定を再考するよう希望する」と明言した。

だが、こうした発言を待つまでもなく、米国の立場は当初から明確だった。

韓国政府は「GSOMIAが終了しても2014年に締結された韓米日防衛機密情報共有のための覚書(TISA)に基づき、軍事情報は引き続き共有が可能」と主張している。これについても、米国は否定的だ。米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によれば、米ミサイル防衛局のジョン・ヒル局長は今月7日、「米日、韓米間の情報共有態勢によっても防衛システムの稼働は可能だが、最適の選択ではない」と述べ、GSOMIAの必要性を強調した。

もっとも、GSOMIA締結の当事者である日本政府は、韓国の破棄決定にもまったくうろたえていない。実際のところ、北朝鮮の脅威から自国を防衛する上では、GSOMIAは必ずしも必要ではないからだろう。

つまりGSOMIAは、韓国や日本よりも米国にとって必要なものなのだ。北朝鮮は短距離から大陸間弾道ミサイルまで、様々な射程のミサイルを揃えている。在韓・在日米軍を守り、グアムや米本土を守るためには、韓国軍や自衛隊が装備する防衛資産の統合的な運用が必要なのだろう。また、米国の視界にはまず間違いなく、ロシアと中国の弾道ミサイルも入っている。

それにも関わらず、文在寅大統領は日本をけん制するつもりでGSOMIA破棄を宣言し、米国を怒らせてしまった。米国の専門家が、GSOMIA破棄は「韓国に致命的な結果をもたらす」と警告しているのは、対日関係や対北朝鮮との絡みからではなく、米韓同盟の今後に関してのことなのだろう。

参考記事:「韓国に致命的な結果もたらす」米国からの警告が現実味

参考記事:「韓国は腹立ちまぎれに自害した」米国から絶妙な指摘

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは一時156.21円、34年ぶり高値

ビジネス

日経平均は反発、日銀現状維持で一段高 連休前に伸び

ビジネス

ANAHD、今期営業益予想18%減 コロナ支援策の

ビジネス

村田製、発行済み株式の2.33%・800億円を上限
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中