最新記事

健康寿命

年金維持のためどの国より健康であり続けなければならない日本──引退年齢と健康寿命の国際比較

2019年12月26日(木)17時00分
清水 勘(ニッセイ基礎研究所)

4──各国の引退年齢と年金支給開始年齢の展望

前出"Pensions at a Glance 2017"では、2016年に20歳で労働市場に参入し各国の標準的な年金支給開始年齢までの期間を平均賃金で就労した場合に受け取る年金額や所得代替率2を試算している。その中で特徴のある国を筆者が任意で抜き出し、試算で用いられた各国の年金支給開始年齢の現在から将来への推移と現在の平均実効引退年齢を図表3に、また、同試算に基づく将来の年金による所得代替率推計を図表4に示した。更に、図表5では、現在の高齢者世帯の収入に占める勤労収入の比率を載せている。尚、国は、将来の所得代替率の高い順に並べている。

Nissei191224_3_4_5.jpg

図表3を見ると今後、年金支給開始年齢の引き上げを行う国が総じて多いことがわかる。高い所得代替率が見込まれるオランダやフランスもこの例外ではない。加えて、図表3からは各国の引退時期についてある特徴が浮かび上がる。欧州の高齢者は年金支給開始を待たずに引退する傾向があり、逆に日本と韓国の高齢者は年金支給開始年齢になっても働き続ける傾向が認められる。前述の通り日本の引退年齢は高度成長期以降3年近く若返ったが、それでも年金支給開始年齢から更に5年、韓国に至っては更に11年近くも働き続けるのが実態の様である。図表5にある現在の高齢者世帯収入に占める勤労収入の比率を見ると日韓両国の比率は他の国に比べて高く、年金支給開始年齢になっても働き続ける両国の高齢者の実態とも符合する。欧州と日韓との間に存在するこの歴然とした違いはどこから生まれるのであろうか。

欧州の引退年齢が早いのは、低迷する若者の雇用機会を拡大させる目的で年金支給開始以前であっても現役に早期引退を促す経済的な施策を講じてきたことが背景にある3とされている。また、欧州は租税負担や社会保険料負担等の国民負担が元々高いだけに年金による所得代替率も高く、年金支給開始後に働く必要もない。そして何よりも重要なこととして、ワークライフバランスにおいて就労よりも余暇に重きを置く欧州固有の労働観も忘れてはならない。

他方、日韓両国の高齢者が年金支給開始年齢以降も引退せずに働き続けるのは、高齢者の就労意欲が高いこと、老後資金の支えである強制加入型年金給付の低いこと等が背景にあるようだ。図表4に掲げたOECDによる将来の所得代替率推計は、その対象を強制加入型年金のみとする場合とそれに任意加入型も加える場合とで率が変わる。公的年金を中心とする強制加入型年金だけでみると日本は40.0%とOECD加盟諸国35カ国中4番目に低い水準となると推計されており、平均実効引退年齢が日本より6年も高い韓国の45.1%をも下回る結果となっている。

――――――――
2 税・社会保険料控除後の純所得代替率。尚、OECDが試算する日本が財政検証で算出する所得代替率とは(1)対象(OECD本人:日本 本人+配偶者)、(2)加入期間(OECD45年、日本40年)(3)年金額(税・社会保険料控除の有無)等で異なっており両者を直接比較することは難しい。
3 労働市場から早期退出制度としてフランスの特定連帯手当(ASS)やドイツの失業給付IIなどがある。近年の財政状況悪化でこれら早期引 退促進策は適用条件の厳格化等見直しが進んでいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中