最新記事

中東

イラン、「アメリカに死を」が「独裁者に死を」へ 旅客機撃墜に憤る国民

2020年1月13日(月)11時35分

ウクライナ旅客機が墜落したことへの対応に国内で怒りが広がり、イランのイスラム政権が正統性の危機に直面している。写真はイラン最高指導者ハメネイ師。テヘランで8日撮影。提供写真(2020年 ロイター/official Khamenei website)

ウクライナ旅客機が墜落したことへの対応に国内で怒りが広がり、イランのイスラム政権が正統性の危機に直面している。墜落はイランがミサイルを誤射したことが原因だったが、軍が撃墜を認めるまでに3日間を要した。

最も影響力のあったイラン革命防衛隊の司令官が米軍に殺害されて以降、イランでは国内に一体感が広がっていたものの、撃墜を巡って国内外で批判が強まる中、そうした機運は失われつつある。

8日に墜落したウクライナの旅客機を巡り、米国とカナダが早い段階でイランによるミサイルが原因と指摘すると、ソーシャルメディアではイラン指導部への批判があふれた。テヘラン発キエフ行きの旅客機に乗った176人は全員死亡した。

今の情勢は、2月に控えるイランの国会議員選挙に暗い影を落とす。選挙結果が政策を左右するわけではないが、イラン指導部は政権の正統性を主張するため、高い投票率を目指すのが常だ。

昨年11月の反政府デモで数百人が死亡してから、指導部は人々の不満の声を耳にしている。

「指導部にとってとても敏感な時期だ。深刻な信用問題に直面している」と、イラン政府の元高官は匿名でロイターに語った。「真実を隠しただけでなく、事態への対応を誤った」

1979年のイスラム革命以降、イランの政権は自らの権力への挑戦を退けてきた。しかし、11月の抗議活動で生まれた政権と国民の溝は深まっているようだ。

「政権の指導部にとって短期的な痛手となるだろう。米国との対立が今回高まる前から抱えていた政治的、経済的な問題による負担がさらに強まるだろう」と、米ブルッキングズ研究所のダニエル・バイマン上級研究員は指摘する。

「独裁者に死を」

ツイッターに投稿された動画は、抗議参加者がテヘランで11日、「独裁者に死を」と叫ぶ様子を映している。最高指導者ハメイニ師を指したものだ。ロイターは動画が伝える抗議の内容を確認できていない。

イランの国営通信社は抗議活動が起きたことを確認している。

革命防衛隊は撃墜に対する謝罪声明を出し、高い警戒態勢の中で防空システムが誤って撃ったと説明した。司令官殺害の報復にイラク領内の米軍拠点を攻撃したイランは、米国の反撃に備えていた。

ある強硬派の政権関係者は、今回の誤射を指導部と革命防衛隊に対する政治的な攻撃材料にしてはならないと話す。「厳しい態度を取るのは避けよう。繊細な時期でみんな神経質になっていた。革命以降、防衛隊がこの国家を守るためにやってきたこを忘れるべきではない」と、この治安関係者は言う。

しかし、選挙での高い投票率がイスラム支配の正統性を裏付けるとしてきたハメイニ師は、国民が政権をそれほど支持していないことを目の当たりするかもしれない。

「なぜ今の政権に投票しなくてはならないのか。彼らをまったく信用していない。飛行機墜落で嘘をついた」と、テヘランの大学生Hesham Ghanbariさん(27)は言う。「向こうが国民を信用せずに真実を言わないのに、こちらが彼らを信用するわけがない」

2018年に米国が核合意から抜けて以降、イランは厳しさを増す制裁の下、経済的に難しい状況にある。重要な収入源である石油輸出も減っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪政府が予算案発表、インフレ対策盛り込む 光熱費・

ワールド

米台の海軍、非公表で合同演習 4月に太平洋で=関係

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ビジネス

独ZEW景気期待指数、5月は予想以上に上昇 22年
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中