最新記事

中国

一党支配揺るがすか? 「武漢市長の会見」に中国庶民の怒り沸騰

2020年1月29日(水)12時35分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

武漢の人口は2018年末統計で1,108.1万人だが、武漢に戸籍を置いている人口は883.73万人で、残りは流動人口なので、まさにこの500万人に近い。

上が情報公開の権限を与えなかったなどと言っているが、1月19日に武漢の百歩亭で「万家宴」などという大宴会を開催したのは誰なのか。武漢市長その人ではないか。

こちらのページにある左二つの写真が大宴会の時の模様だ。動画の一部分はこのサイトでも見ることができる

昨年12月8日に患者の第一例が出て、次から次へと新たな患者が出たことは武漢市の市長であるなら熟知していたはず。12月26日には上海からウイルスのサンプル検査をするチームが武漢入りしている。その結果、新型コロナウイルスであることは今年1月5日には判明している。ネットには次から次へと恐怖が訴えられ、12月31日には大きく報じられていた。

それでも両会を知らぬ顔をして武漢で開催したのは湖北省だが、その間、「何も起きていません。問題は解決しています」と「上に」報告してきたのは武漢市長、あなただろう。

そしてこの盛大な「万家宴」を催して偽装工作をしていたこの日に、中国工程院の院士である鐘南山が武漢を視察し、その足で北京に引き返して習近平国家主席に報告した。その経緯は1月24日のコラム<新型コロナウイルス肺炎、習近平の指示はなぜ遅れたのか?>に書いた通りだ。その間、武漢市は偽装工作以外、何もしようとしなかった。

上述の動画にあるように、CCTVは1月21日に武漢市市長を取材し、新京報がその様子を報道している。それでもなお、このような大ウソをつく神経はどこから来るのか。

この人のせいで、われわれ日本人も新型肺炎の恐怖に巻き込まれている。

なぜこんな人を市長にしたのか。任命責任は最終的には一党支配のトップに立っている習近平国家主席にある。

このような人が地方都市の市長の座におり、あの巨大な一党支配の国家の一角を形成していることに唖然とするばかりだ。

だとすれば、一党支配体制のなんともろいことよ!

庶民の不満が一党支配体制を揺るがさないとも限らない。ネットユーザーが書いている通り「火山口」に近づいているのだ。

それにしても、最近の中国の地方政府と中央政府の関係はどうもおかしい。脆弱性があるだけでなく、責任のなすり合いをしている。考察を続けたい。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中