最新記事

ブレグジット

ブレグジット後の不気味な未来、北アイルランドが血で染まる日

A Possible Return to Violence

2020年1月30日(木)18時30分
ジェーソン・ブラザキス(ミドルベリー国際問題研究所)、 コリン・クラーク(カーネギー・メロン大学)

EU離脱という「好機」到来

そこへ、イギリスのEU離脱という大きな政治的変化が来た。過激派が待ちに待った好機の到来だ。北アイルランド警察庁(PSNI)によると、準軍事的組織による襲撃事件の犠牲者は、2018年の51人から昨年は67人に増えたという。

中立的な「独立報告委員会」が昨年11月に出した報告書も、「09〜10年以降は準軍事組織による襲撃や爆弾テロは減少傾向にあったが、18 年10月1日から19年9月30日までの1年間では、準軍事組織の犠牲になった死者数と攻撃事例が増加していた」と指摘している。

イギリスのEU離脱をめぐる16年の国民投票で、北アイルランドは残留派が過半数を占めた。カトリック系住民の投票率が高かった証拠だが、これを受けて北アイルランドのカトリック系政党やアイルランド共和国政府は、アイルランド統一の是非を問う住民投票の実施を提唱するようになった。

一方で、離脱後にアイルランド共和国と北アイルランドの国境に物理的な「壁」ができれば、カトリック系過激派が猛反発し、暴力行為が再燃する恐れがあるとの観測もある。

最近の一連の暴力沙汰は、そうした不安に信憑性を与えている。昨年1月には北アイルランドのロンドンデリーにある裁判所の外で自動車爆弾テロがあったが、これは「新IRA」を名乗る集団(旧IRAの複数の分派集団が合流した武装組織)の犯行とされる。

同じ月には、新IRAがロンドンデリーのクレガン地区で15歳の少年を拉致して射殺する事件も発生。新IRAはさらに同年4月、市内で暴動を取材中の記者ライラ・マッキーを射殺。彼らは遺憾の意を表明したが、国内外で激しい非難を浴びた。

EU側もアイルランド共和国政府も、アイルランド島の北部に物理的な国境ができれば治安の維持に重大な懸念が生じると考え、イギリス政府との離脱交渉では物理的な国境復活の回避が最優先事項とされた。この点は、前首相のテリーザ・メイがEU側と合意した「バックストップ(安全策)」案でも、ボリス・ジョンソン首相がEU側と結んだ離脱協定でも変わっていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カーライルが日本KFCにTOB 1株6500円

ワールド

インドネシア、25年経済成長予測引き下げ 財政赤字

ワールド

中国、4月の豪州産石炭輸入が約4年ぶり高水準

ビジネス

SOMPOHD、発行済み株式の4.04%・770億
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 9

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中