最新記事

北朝鮮

文在寅を見限った金正恩......「新型コロナ」でも問答無用

2020年2月20日(木)11時10分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮にとって韓国は一番頼りになる隣国のはずだが…… Korea Summit Press Pool/REUTERS

<新型コロナウイルス蔓延で北朝鮮が今後、韓国に救いを求める可能性は十分にあるはずだが、それでも金正恩は文在寅の非難を止められない>

北朝鮮が、このところ控えていた韓国の文在寅大統領に対する非難を再開した。

北朝鮮の対韓国宣伝サイトである「ウリミンジョクキリ(わが民族同士)」は19日、「事大と屈従は事態をいっそう悪化させるだけ」と題した論評を掲載。文在寅氏が、在米韓国大使館が8日に全米知事会(NGA)と開催したレセプションに送った映像メッセージを問題視した。

論評は、メッセージで「過去70年、両国は共に韓半島の平和と北東アジアの安全を守ってきた」「血で結ばれた韓米同盟は安全保障を越えて経済協力までも含む偉大な同盟になった」などと語った文在寅氏の発言に言及。

「まさに事大と外勢屈従のにおいが漂う不穏当な発言」であり、「現南朝鮮当局が今まで外勢依存政策を続け、これだけ苦い経験をしても、まだ気を取り直していないようだ」と非難した。

北朝鮮は現在、諸外国と同様、新型コロナウイルス対策で非常事態下にあるが、防疫体制が脆弱である分、日本や韓国よりも緊張度は高いと見られる。すでに国内経済は弱っており、治安の乱れを抑えつけるため、一時は低調となっていた公開処刑も活発化させている。

このような状況で新型コロナウイルスがまん延するようなことになれば、体制が土台から揺らぐ可能性すらある。

<参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

そのようなリスクを考えれば、いざという時に救いの手を差し伸べてくれそうな相手を考えそうなものだ。その意思と能力の両面で北朝鮮を支え得る存在の筆頭は、文在寅政権下の韓国に他ならない。

それでも金正恩氏は、どのような状況が生じようとも文在寅政権に頼るつもりはないようだ。でなければ、このタイミングで非難の論評を出すはずもない。

しかし、今のところ感染者が出たとの公式発表のない北朝鮮だが、状況がどう展開するかによって、金正恩氏の思惑が大きく外れることもあり得る。果たして新型コロナウイルスは、朝鮮半島情勢に影響を与える「変数」となるのだろうか。

<参考記事:「あと15日しかもたない」金正恩、新型肺炎で体制崩壊の危機

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英賃金上昇率、12─2月は前年比6.0% 鈍化続く

ビジネス

出光、富士石油株を追加取得 持分法適用会社に

ワールド

アングル:「すべてを失った」避難民850万人、スー

ビジネス

日経平均は大幅続落、米金利上昇や中東情勢警戒 「過
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中