最新記事

ルポ

さまようアフリカ難民に、安住の地は遠い

Europe’s Harsh Border Policies

2020年3月13日(金)15時30分
サリー・ヘイデン

リビア沿岸警備隊に拘束される難民たち LIBYAN COAST GUARD-HANDOUT-REUTERS

<欧州を目指すアフリカの難民はリビアで苦難に耐えチャンスを待つが、何としても移民・難民の流入を阻止したいEUのガードは堅くルワンダへ移送されている>

昨年10月にリビアを離れる前日まで、エリトリア出身のアレクス(仮名)は奴隷同然だった。彼をこき使っていたのは、国連の支援下で首都トリポリを支配する暫定政府に連なる民兵の一派。頭目のモハメド・アルホハは暫定政府の不法移民対策局次長でもある。

仕事は武器弾薬の運搬から清掃、果てはアルホハの所有する馬たちの小屋を建てることまで。当時、暫定政府に敵対するリビア国民軍は首都近郊まで迫っていたから、いつ砲弾やドローンが飛んでくるか分からない。

アレクスは気が気でなかったが、民兵たちの命令に逆らえば何をされるか分からない。民兵と行動を共にする民間人は、いつ「人間の盾」とされても、敵の標的となってもおかしくない。

アレクスの体験から見えてくるのは、EUが国境管理を厳しくして、海を渡ろうとする難民をリビアに押し戻し、現地の民兵たちの管理下に置いている現実だ。祖国を脱出した人々が難民申請の機会を得るまでに、どれだけの苦難が待っているか。運よくリビア国外に移されても到着先でどれだけ待たされ、不安な日々を過ごさなくてはならないか......。以下はその物語だ。

多くの同胞と同様、アレクスもエリトリア政府が課す無期限の「国家奉仕活動」に耐え切れず国を脱出、欧州大陸に渡って「自由」を手にする夢を抱いてリビアまで来た。なお国連の調査団はこの強制的奉仕活動を「奴隷制」に等しいと指摘し、人道犯罪だと非難している。

借金で集めた約1万6000ドルの手数料を業者に払い、アレクスはリビアの海岸から欧州大陸に渡ろうとしたが、乗り込んだボートはリビアの沿岸警備隊(EUが資金を出している)に拿捕された。

その後、アレクスは不法移民対策局の事実上の本部であるトリク・アルシッカ収容所で1年以上を過ごした。

EUが資金を出す理由

昨年4月にトリポリ近郊の戦闘が激化すると、民兵はアレクスを収容所から出し、道路を隔てた軍事基地で働かせることにした。その基地は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の用意した敷地内にあり、本来なら第三国への移送が正式に決まるまでの間、難民たちを収容するための場所だったという(他の難民たちも同様の話をしており、現地入りした支援関係者も一部の難民が収容所から「消える」事例を把握している)。

その後のアレクスは、UNHCRの職員と面会するときだけ収容所に戻された。何度か面談を重ねた後、「朗報」が届いた。ルワンダへの移送が決まったのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア軍の上陸艇を撃破...夜間攻撃の一部始終

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 6

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 7

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中