最新記事

2020米大統領選

新型コロナ蔓延でアメリカ大統領選は「未知の領域」へ

Let’s Cancel the Campaign

2020年3月20日(金)10時00分
ローリー・ギャレット(米外交問題評議会・元シニアフェロー)

スーパーチューズデーに向けた集会でバイデンは大勢の支持者に囲まれていた(ロサンゼルス) ESSAM AL SUDANI-REUTERS

<民主選挙の看板のようなアメリカ大統領選だが、大規模集会も触れ合いもウイルスの感染を広めるだけ>

アメリカよ、今こそ腹をくくれ。とんでもない疫病がはびこっているこの時期に、今までどおりの民主的選挙を続けられるのか。今までどおりが無理ならば、どうすれば民主主義を守れるのか。

あいにく、まともな答えはない。なにしろ今は建国以来初めて、二大政党が選挙運動や党大会の中止を検討しなければならない瀬戸際に立たされている。有権者が投票所に行かずに投票する方法も、本気で考えねばならない。

3月3日のスーパーチューズデーはどうだったか。党の大統領候補を決める予備選が14州で一斉に行われた日だ。投票所には長蛇の列ができ、一部の州、とりわけカリフォルニアでは記録的な投票率となった。すると翌日、州内で初の新型コロナウイルス感染による死者が出た。州知事は直ちに非常事態を宣言した。いくつかの郡で市中感染の形跡があったからだ。

選挙がらみで危ないのは投票所だけではない。有権者一人一人と握手する、一緒にスマホで自撮りする、赤ん坊を抱き上げてキスする、ハグをして写真に納まる。そんなアメリカ流の選挙運動の一つ一つがリスクをはらむ。

民主党予備選で事実上の一騎打ちとなったジョー・バイデン前副大統領とバーニー・サンダース上院議員は今もどこかで、たくさんの有権者と握手を交わし、彼らと大げさにハグしている。ほんの1時間で、普通の人が1カ月に触れ合うくらいの人と濃厚接触している。もしも集会の場に感染者がいれば、握手をした候補者の手を介してウイルスは別の人の手に移り、次々と感染が拡大していく。

共和党より民主党に逆風

2月29日にメリーランド州で開かれた共和党系の保守政治活動集会(CPAC)の決起集会を見ればいい。会場に姿を見せたドナルド・トランプ大統領は約1万9000人の群衆に語り掛け、熱烈な支持者たちと握手し、ハグし、キスを交わした。そして新型コロナウイルスについては「全ては本当に制御されている」と請け合い、政府の対応は専門家から「とても高い成績をもらっている。A+++だ」と述べていた。

だが、その場にもウイルスは潜んでいた。3月7日にはニュージャージー州からCPACに参加した人の感染が発覚。主催の全米保守連合(ACU)によると、トランプもマイク・ペンス副大統領も感染者と接触していなかった。ただしACUのマット・シュラップ議長はその人物と直接会い、その少し後にトランプと握手したという。

夏の全国党大会が中止に追い込まれたら、その打撃は共和党よりも民主党にとって大きいだろう。選挙予想のプロによれば、サンダースとバイデンが最後まで大接戦を演じて7月半ばの全国党大会に突入し、どちらも1回目の一般投票で過半数を得られない事態も想定される(その場合は現職議員や知事を含む「特別代議員」の出番になる)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド鉱工業生産、3月は前年比+4.9% 鉱業部門

ビジネス

静岡支店長に蒲地氏、大分は安徳氏=日銀人事

ワールド

カナダ西部で山火事広がる、数千人に避難指示 大気汚

ワールド

パキスタン、景気下振れリスク依然として高い=IMF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中