最新記事

中国

中国の無症状感染者に対する扱い

2020年3月26日(木)14時35分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

こうした中で、特徴的なのは濃厚接触者の数が、これも時々刻々更新されて報道されたことである。

この「濃厚接触者を(かなり)正確に掌握している」というのが中国の特徴だ。

たとえば、確定患者およびその患者と接触したAさんが、その後どこでどういう行動をしたかに関する追跡は、中国にとっては「お手の物」なのである。

なんと言っても3億台近い監視カメラが全国くまなく張り巡らされ、14億の全ての人民に身分証番号があり、顔認識カメラにより、顔をレンズが捕えさえすれば身分証番号が出て来る。

番号を入力(あるいはパソコン画面に現れた番号をクリック)しさえすれば、何年何月何日どこで生まれたかに始まり、両親の名前や職業、財産(持ち家の有り無し、貯金残高、借金、車の有無と種類・プレートナンバー...)、犯罪歴...等や、本人の学歴、職歴、趣味、電話番号、交流関係、購買動向など、全ての個人情報が一瞬でパソコン画面上に提示される。

患者を特定すれば、その身分証番号との濃厚接触者を見つけることができ、今度はその複数の濃厚接触者を監視カメラが徹底して追跡してくれる。こうして割り出した濃厚接触者を、まるで犯人捜査のように追跡して「捕まえ」、検査を強行するのである。その中に「無症状だけど、陽性」という人たちが出て来るわけだ。逃げようがない。

まるでブラックユーモアのような逸話もある。

湖北省以外に住む男がいた。ある晩、公安から男に電話が掛かってきて「あなたの奥さんは武漢人ですね。最近武漢に戻ったことはありませんか?」と聞いてきた。男は「はい、妻は武漢人ですが、ここ数ヶ月は武漢に戻ったことはありません」と答えた。すると公安は「そうですか。ただあなたの奥さんは昨日ホテルを取りましたよね。武漢人がホテルを取ることに関して私たちは非常に神経質に監視しているので、念のため何の目的でホテルを取ったのか確認しただけです。武漢に戻ってないのなら大丈夫です」と公安は言い残し電話を切った。少しも大丈夫でないのは男の方で、これにより妻の不倫がばれたという話だが、要は、これくらい緻密に監視網が張られているという逸話である。

無症状感染者をどのように扱うのか

問題は、こうして検出した無症状感染者をどのように扱うのかである。

まず一人残らず「施設」に入れて14日間「隔離」し観察する。14日間経っても症状が出ず、かつPCR検査で陰性になれば、そこから24時間後に再度検査し、それでも陰性であるならば、晴れて「無罪放免」となり隔離を解除する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大和証G、26年度までの年間配当下限を44円に設定

ワールド

北朝鮮、東岸沖へ弾道ミサイル発射=韓国軍

ワールド

ロシア、対西側外交は危機管理モード─外務次官=タス

ビジネス

中国4月経済指標、鉱工業生産が予想以上に加速 小売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中