最新記事

感染症対策

新型コロナウイルス対策は公務員限定で給与減や帰省禁止? インドネシア、後手に回る政府の対応に批判の声

2020年4月3日(金)21時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)

newsweek_20200403_215613.JPG

インドネシア、ジャカルタ市内に設置された手洗いスタンド(撮影=筆者).

西ジャワ州は公務員の給与カット

首都ジャカルタに隣接する西ジャワ州のリドワン・カミル知事は3月31日、州政府職員など州の地方公務員の給与を今後4カ月間一律カットする方針を示した。

これは「新型コロナウイルス対策に回す財源を手当てし、確保するための止むを得ない非常手段」として職員の理解と支持を知事は求めた。詳細な給与カットの額、比率に関しては現在精査しているところとしているが、「当然のことだが知事、副知事もカットの対象になる」として州知事自身も給与カットで非常事態に協力する姿勢を明確にしている。

リドワン知事はジョコ・ウィドド大統領の中央政府の感染拡大阻止の対策が手緩い、遅いと批判。これまでも州の住民約2万人を対象にした大規模な感染検査を一斉に実施して、その結果に基づいた「感染者分布地図」を作成したり、それに基づく限定した地区の「封鎖」を進めようとするなど州内住民の感染対策を率先して進めている。

「中央政府に頼っていては手遅れ」という考えを実践で示すその姿は、地元マスコミなどから「西ジャワ州知事の反旗」などと指摘されている。

公務員限定の対策に賛否も

首都ジャカルタなど主要都市での「企業活動の自粛」や「外出自粛」「在宅勤務」など、企業活動への様々な制限が発表されるなか、大企業や外国資本の会社などの優良民間企業は給与の減額などは発生しているものの、なんとか今のところ、もちこたえている。その一方で労働省の発表によればこれまでに中小企業を中心に新型コロナウイルスに関連して56社で2311人が解雇される事態になっているという。

こうした厳しい社会状況の中で公務員は給与や待遇面では民間企業と比較すると格差が依然として残るものの、解雇に追い込まれるという懸念はない。

それだけに「給与カット」や「大型休暇での帰省禁止」は生活苦に即座に直面する訳ではないとして「(公務員は)恵まれている。不満を言うべきでない」との受け止め方も国民には広がっている。

西ジャワ州が先鞭をつける形で導入を始めようとしている知事、副知事を筆頭とする公務員の「給与返上」、一部閣僚が唱えている国家公務員の「大型連休中の帰省禁止」はいずれも現段階では限られた範囲での感染拡大予防策に留まっている。

医療従事者を支え、不足している医療機器に回せる財源を十分確保するためには、場当たり的に公務員に「給与カット」を要求するのではなく、政府としてきちんと対応することが必要だ。また、感染の地方拡大を真剣に心配するなら、国家公務員だけでなく、国民全体に対して「帰省を思いとどまる厳しい姿勢や規制」に本腰をいれて取り組む必要がある。ジョコ・ウィドド大統領の指導力の真価が問われようとしている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など


cover200407-02.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月7日号(3月31日発売)は「コロナ危機後の世界経済」特集。パンデミックで激変する世界経済/識者7人が予想するパンデミック後の世界/「医療崩壊」欧州の教訓など。新型コロナウイルス関連記事を多数掲載。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元カレ「超スター歌手」に激似で「もしや父親は...」と話題に

  • 4

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 9

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 10

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中